第3章 吸魂鬼
「早くトランクに戻して」
ハーマイオニーが眉をひそめる。
スニーコスコープの甲高い音は次第に耳障りになり、チユも思わず耳を押さえた。
ロンは慌ててスニーコスコープをボロ靴下に押し込み、トランクの蓋をぱたんと閉めた。
やっと音がやみ、車内に静けさが戻る。
「ホグズミードで調べてもらえるかもしれない」
ロンが息をつきながら腰を下ろした。
「『ダービシュ・アンド・バングズ』っていう店で、魔法の機械とかいっぱい売ってるんだって。フレッドとジョージが教えてくれたんだ」
「ホグズミードのこと、よく知ってるの?」
ハーマイオニーが興奮気味に身を乗り出す。
「本で読んだわ。イギリスで唯一の、完全にマグルなしの村だって」
「へぇ……」
マグルから切り離された村。
想像するだけで、秘密の扉をのぞくように心が弾む。
「僕、だからそこに行きたいってわけじゃないけどさ……」ロンはわざとらしく視線を逸らしながら言った。
「『ハニーデュークス』の店に行ってみたいんだ!」
「それって、何?」とハーマイオニーは首をかしげる。
「お菓子屋だよ!」ロンの顔が途端にうっとりした。
「なーんでもあるんだ……激辛ペッパー、食べると口から火花が出るんだ――それに大粒のチョコボールの中には苺ムースやクリームがぎっしり!砂糖羽根ペンなんかもあるんだぞ!―――授業中にこれをなめていたって、次に何を書こうか考えているみたいに見えるんだ!」
チユは目を丸くした。
「そんな夢みたいなお菓子屋さんがあるの?行ってみたい!」
ハーマイオニーは咳払いをして、強引に話題を取り戻す。
「でも、ホグズミードには面白い史跡もあるのよ。宿屋は1612年の小鬼の反乱で本部になった場所だし、『叫びの屋敷』はイギリスで1番恐ろしい幽霊屋敷だって――」
「それから大きな炭酸入りキャンディ!」ロンはハーマイオニーの言葉を遮って夢中で語り続ける。
「なめてる間、地上から数センチ浮き上がるんだ!」
「ちょっと……」
ハーマイオニーは肩を怒らせるが、チユはくすくすと笑った。
「ロンってば、本当に食いしん坊だね」