第3章 吸魂鬼
ハリーは一瞬ムッとしたように顔をしかめた。
「僕がいつ自分からトラブルに飛び込んだっていうんだ!」
彼の声は少し荒々しく、コンパートメントの狭い空間に響いた。
「トラブルの方から勝手にやってくるんだ!毎回、僕が望んでもないのに、目の前に現れるんだよ!」
チユはハリーの隣にそっと手を置いた。
彼女の指は細く、ほんの少し震えていた。
「ハリーにはいつも、普通じゃないことが起こる。でも、だからって、あなたが1人で全部背負う必要はないよね?」
チユの声は穏やかで、まるで雨音に寄り添うような柔らかさがあった。
ハーマイオニーはチユの言葉にうなずき、珍しく感情的な口調で言った。
「チユの言う通りよ、ハリー。私たち、仲間なんだから」
ハリーは一瞬言葉に詰まり、皆を見回した。
ロンの気まずそうな笑顔、ハーマイオニーの決意に満ちた目、そしてチユの、どこかいたずらっぽくも温かい視線。
「…ありがとう、みんな。」ハリーは小さく呟き、小さな笑みを浮かべた。
そのとき――。
「なんの音だろう?」
ロンが首を傾げ、耳を澄ませた。
小さな口笛のような音が、かすかにコンパートメントに響き渡っている。
「えっ?」
チユもきょとんとして辺りを見回した。
どこか落ち着かないような、不思議な音。
「ハリー、君のトランクからだ」
ロンが立ち上がり、荷物棚を探る。
やがて彼の手に握られたのは、小さなコマのような物――それは激しく回転しながら、眩い光を放っていた。
「スニーコスコープ?」
ハーマイオニーが目を輝かせて身を乗り出す。
「うん……だけど、安物だよ」ロンは不満げに言った。
「エロールの脚にハリー宛ての手紙をくくりつけようとしたときも、ものすごく回ってさ」
「そのとき何か怪しげなことをしてなかった?」
ハーマイオニーの鋭い指摘に、ロンは慌てて手を振る。
「してない!でも……エロールを使っちゃいけなかったんだ。あいつ、長旅には向かないんだよ。でもさ、ハリーにプレゼント届けるのに他にどうすりゃよかったんだい?」