第3章 吸魂鬼
「実は、昨夜…ウィーズリーおじさんとおばさんの話を聞いてしまったんだ」
ハリーは声を低くして、まるでその言葉自体が禁断の呪文であるかのように話し始めた。
「僕がマージ伯母さんを…その、膨らませちゃった件、覚えてるよね。あれ、結局お咎めなしだったんだけど…どうやらそれには理由があるみたい。漏れ鍋に泊まらせてたのも、僕を監視しやすいように。シリウス・ブラックが…アズカバンから脱獄したから」
ハリーの最後の言葉は、まるで冷たい風のようにコンパートメントを凍りつかせた。
「彼、僕を探してるんだって」
アズカバン——誰も逃げ出せないとされる監獄——から脱走した、闇の魔法使い。
彼女はハリーをちらりと見た。
彼の緑の瞳には、いつもの反抗的な光が揺れていたが、その奥に怯えが隠れているのを感じた。
チユの心臓もまた、ドクドクと重く鳴っていた。
「ハリーを…狙ってる?なんで…?」チユは思わず呟き、声が震えた。
「僕を殺せばヴォルデモートの権力が戻ると思っているらしい」
ロンは口をぽかんと開け、まるで言葉を失ったかのように茫然としていた。
ハーマイオニーは唇を噛み、信じられないという表情でハリーを見つめた。
チユは窓の外に目をやり、田園風景をぼんやりと眺めた。
胸の奥で何かが締め付けられるような感覚があった。
(また…ハリーがこんな目に遭うなんて……。)
彼女は心の中で呟いた。
ハリーの人生は、いつも嵐の真ん中に放り込まれるようなものだった。
最初に沈黙を破ったのはハーマイオニーだった。
彼女は前髪をかき上げ、いつもの理性的な口調を取り戻そうとしながら、しかし切迫した声で言った。
「つまり…シリウス・ブラックがアズカバンから脱獄したのは、あなたを…その、殺すためだって言うの?」
彼女の目は心配と恐怖で揺れていた。
「お願い、ハリー。今学期だけでも、トラブルに首を突っ込まないで。いつもみたいに自分から飛び込んでいかないで!」