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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【3】

第3章 吸魂鬼



チユ達が列車の側面に近づくと、機関車から吐き出される蒸気が白いもやを空に描き、プラットホームは一気に慌ただしくなった。
けたたましい汽笛と、旅立ちを急ぐ生徒たちのざわめきが響き合う。



ハリーがチユの重い荷物をさりげなく持ち上げ、にこっと笑った。


「ほら、ここ空いてるよ」

彼の声は、列車の騒音にかき消されそうになりながらも、温かみを帯びて耳に届いた。



リーマスがふいに口を開いた。
「私は、少し車掌と話してくるよ」
彼はチユに軽い目くばせを送り、別の扉をくぐっていった。



ハーマイオニーが素早く席を確保し、ロンとハリーがその後に続く。
チユはハリーの後ろを歩き、ぎしぎしと音を立てるコンパートメントに滑り込んだ。



席に腰を下ろすと、窓の外ではホームがゆっくりと遠ざかり始めた。
汽笛が甲高く鳴り響き、列車の振動が体を優しく揺さぶる。
外の空は次第に茜色に染まり、車内には柔らかな灯りがともった。



列車が走り出してしばらく経つと、車内の揺れも落ち着き、静かなリズムに変わった。
すると、ハリーが急に真剣な表情を浮かべ、声を潜めた。




「君たちにだけ、話したいことがある。」



その言葉に、チユは思わず背筋を伸ばした。
ハーマイオニーとロンが顔を見合わせ、コンパートメントに緊張が走る。



「シリウス・ブラック」



ハリーがその名を口にした瞬間、チユの胸に冷たい風が吹き抜けた。
脱獄した囚人――その名前はまるで暗い呪文のようだった。



「奴が……僕を狙ってるらしい」


重苦しい沈黙が全員を包み込んだ。
窓の外を流れる景色も、列車の単調な音も、まるで遠い世界のものに感じられた。


チユは膝の上で握りしめた手をじっと見つめ、胸の奥で渦巻く不安を押し込めようとしていた。
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