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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【3】

第1章 夏の知らせ


夕暮れの台所は、柔らかな橙色の光に染まり、洗いざらしのカーテンがそよぐ風にふんわりと膨らんでいた。
古い木のテーブルの上には、乾いたハーブの束がほのかな香りを漂わせ、どこか懐かしい安らぎを醸し出している。


チユは湯気の薄れたマグカップを両手で包み、窓の外に広がる夕焼けをぼんやりと眺めていた。
空は燃えるような赤から深い藍へと移り変わり、彼女の心に静かな波を立てていた。



ホグワーツでの出来事や、リドルの囁きが頭をよぎるたび、胸の奥に小さな影がちらつく。


それでも、この家――リーマスの家――の穏やかな空気は、チユをそっと包み込んでくれる。




扉が軋む音がして、チユはハッと顔を上げた。



リーマスが台所に入ってきた。



いつもの古びた上着を羽織り、袖口は少し擦り切れている。
手に持った封筒には、ホグワーツの封蝋が割れた跡がくっきりと残っていた。

チユの視線がその封筒に吸い寄せられる。
どこかいつもと違う、微妙な緊張感が彼の肩に宿っているように見えた。



「少し話があるんだ。いいかな?」



リーマスの声は穏やかだったが、どこか照れくさそうな響きが混じっていて、チユは思わず瞬きした。

普段の彼は落ち着き払っていて、こんな風にためらうことは滅多にない。彼女の心に、好奇心とわずかな不安が芽生えた。



「どうしたの?」


チユの声は軽く、からかうような調子だったが、目は真剣にリーマスを見つめていた。
マグカップをテーブルに置き、身を乗り出す。


リーマスは小さく笑い、封筒を手に軽く叩きながら、ゆっくりと言葉を選ぶように口を開いた。



「実は、この秋から……ホグワーツで『闇の魔術に対する防衛術』を教えることになったんだ。」




時間が一瞬、凍りついた。



チユの耳にその言葉が響き、次の瞬間、心の奥で何かが弾けた。


椅子がガタンと鳴り、彼女は勢いよく立ち上がっていた。
瞳がキラキラと輝き、頬が一気に熱くなる。

胸の奥で、固く凍っていた何かがパキンと割れ、温かな光が洪水のように流れ込む感覚がした。



「え、リーマスが……先生に? ホグワーツの!?」



声が震え、言葉が弾むように飛び出した。
驚きと喜びが混じり合い、チユの口元には抑えきれない笑みが広がる。

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