第1章 夏の知らせ
(やっぱり……私は、誰とも深く関わるべきじゃないのかもしれない……)
自分自身に言い聞かせるような、儚い響き。
ふと幼い頃、孤児院で“悪魔”と呼ばれていた自分の姿が脳裏をかすめた。
泣きじゃくる子どもたちを無視し、頑固に壁際でじっとしていたあの日々――周囲の恐れと蔑みの目に、怯えながらも、何も言えなかった。
リーマスが近くで本を手に取る音がしても、チユは顔を上げられなかった。
彼が優しく頭を撫でてくれるたび、胸の奥で疼く痛みを誤魔化すように、彼女は微笑みを浮かべた。
だが、その笑顔はどこかぎこちなく、すぐに俯いてしまう。
それでも、リーマスは変わらずそばにいてくれた。
朝になると、庭の小さなテーブルで紅茶を淹れ、星座の物語を語ってくれた。
彼の声は、低く落ち着いていて、まるで夜の闇を溶かすような温かさがあった。
「ほら、チユ、オリオン座の話、覚えてるかい?」と笑いながら、ティーカップを差し出してくれる。
夕暮れには、ランプの灯りの下で、古い魔法の物語を読み聞かせてくれた。
ページをめくるたびに、埃っぽい本の香りが漂い、チユの心をほんの少しだけ軽くした。
「リーマス、昔の魔法使いって、こんな風に闇と戦ってたんだね……私もちゃんと戦えるかな?」
チユの声は、物語の余韻に浸りながらも、どこか不安を帯びていた。
リーマスは本を閉じ、彼女をじっと見つめた。
「チユ、君はもう十分戦ってるよ。怖くても、こうやって前に進もうとしてる。それが強さなんだ」と、彼は静かに、しかし力強く答えた。
その言葉に、チユの胸は一瞬温かくなった。
だが、夜が深まると、再びあの囁きが蘇る。
月光が部屋を青白く照らし、彼女の羽根が微かに揺れる。
心の奥で渦巻く恐怖と戦いながら、チユは小さく呟いた。
「私、絶対に負けない……リーマスやハリーが信じてくれるなら、私も自分を信じなきゃ……」
チユは掛布団をぎゅっと抱きしめ、夏の夜の静寂の中で震えた。