第1章 夏の知らせ
オリバンダーはゆっくりと近づき、まるで古い友人を見つけるようにチユを見やった。
「なるほど……杖が壊れてしまったのですね」
彼の声は低く、まるで彼女の過去の出来事をすべて見透かしているかのようだった。
「杖は魔法使いの心の一部。新しい杖は、君の新たな旅の始まりだよ。」
チユはゴクリと唾を飲み、リーマスに視線を投げた。
彼は静かにささやいた。
「大丈夫だ、チユ。杖が君を選んでくれる」
その声は、まるで穏やかな魔法のように彼女の心を落ち着けた。
試しの時間が始まった。
オリバンダーが最初の杖を手渡す。
黒檀の細長い杖だ。
チユが握った瞬間、棚の上の箱が一斉にガタガタと揺れ、次の瞬間、ドドドッと雪崩のように崩れ落ちた。
「ひゃあっ!」 チユは悲鳴を上げ、慌てて後ずさり、リーマスの胸にぶつかった。
「ふむ、違うな。」 オリバンダーはまるで何事もなかったかのように呟き、崩れた箱を一瞥しただけだった。
次に渡されたのは、桜の木の軽やかな杖。
チユが試しに振ると、窓辺の植木鉢から緑の蔓が爆発的に伸び、彼女の顔にバサッと絡みついた。
「わっ! も、もう、こんなの嫌!」 チユは必死に蔓を払い、涙目でリーマスを見上げた。
「これじゃあ、魔法じゃなくて呪いだよ……」
リーマスはくすくすと笑い、チユの額に絡まった1枚の葉をそっと取ってやった。
「気にすることはないさ。杖選びは、まるで運命の相手を見つけるようなものだから」 彼の声は温かく、チユの緊張をほぐした。
そして、3本目。
オリバンダーが慎重に選んだ、短めで、真紅のレッドオークの杖。
チユが手に取った瞬間、指先に柔らかなぬくもりが広がり、心臓の鼓動と共鳴するように杖が小さく震えた。
「……あ。」 チユの声は小さく、驚きに満ちていた。
彼女は自然と杖を振った。
すると、柔らかな金色の光が花びらのように店内に広がり、薄暗い影を優しく照らした。
埃の粒子が光の中で踊り、まるで小さな星々がチユを祝福しているようだった。
オリバンダーの瞳がきらりと光った。