第1章 夏の知らせ
ダイアゴン横丁の石畳を歩きながら、チユは胸の高鳴りを抑えきれなかった。
――いよいよ、新しい杖を買うんだ。
古い杖が壊れて以来、魔法を思うように使えないもどかしさが続いていた。
でも今日、すべてが変わる。
新しい杖が、彼女の魔法を再び解き放ってくれるはずだ。
リーマスと待ち合わせた広場で、灰色のローブ姿の彼を見つけた瞬間、チユは思わず駆け寄った。
「リーマス!」
「チユ、教科書は揃ったかな?」
彼はいつもの穏やかな微笑みで迎えてくれる。
「うん……ただ、ちょっと、いや、かなり怖い教科書だった」 チユは大げさに眉を寄せ、両手を広げて訴えた。
「『怪物的な怪物の本』って! 噛みついてくる本なんて、どうしてあんなのを教科書にしたんだろう……」
リーマスは喉の奥で笑い、軽くチユの肩を叩いた。
「ハグリッドが担当だからね。驚くような教材を選ぶのは、ある意味想定内さ」
「……はぁ。これから1年、大丈夫かな……」
チユは大きくため息をついたが、次の瞬間には顔を上げて、声を弾ませた。
「でも!それより楽しみなことがあるんだ。ねえ、早く行こう!」
彼女はリーマスのローブの裾を軽く引っ張り、子供のようにはしゃいだ。
リーマスは静かにうなずき、柔らかい笑みを浮かべた。
「よし、行こう。オリバンダーの店は、いつだって特別な場所だ。」
2人は石畳を抜け、古びた看板が軋む『オリバンダーの杖店』の扉を押し開けた。
カラン……と鈴の音が鳴り、薄暗い店内に入ると、独特のひんやりとした空気に包まれる。
壁一面にびっしりと積まれた杖の箱が、まるでこちらを見下ろすように静かに佇んでいた。
「おや……お客さんですか?」
闇の奥から、細く掠れた声が響いた。
オリバンダー老人が姿を現す。
彼の瞳は、まるでチユの心の奥底を覗き込むように鋭く光っていた。
チユは思わず息を呑み、リーマスのローブの袖をそっとつかんだ。
「は、はい……新しい杖を買いに…」 チユの声は少し上ずり、緊張がにじむ。
だが、その奥には新たな魔法への期待が確かに宿っていた。