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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【3】

第1章 夏の知らせ



ホグワーツから戻ったチユは、リーマス・ルーピンと共に、彼の古びた家で夏を過ごしていた。


森の端にひっそりと佇むその家は、苔むした石壁と、軋む木の床が、どこか懐かしい温もりを放っていた。
庭にはラベンダーが咲き乱れ、朝の風に揺れるたびに甘く清らかな香りが漂い、チユの心を一瞬だけ軽やかにした。


古びたソファに並んで本を読む時間は、まるで時間が止まったような静けさに満ちていた。
リーマスの穏やかな声が、ページをめくる音と混じり合い、チユに束の間の安らぎを与えてくれる。



けれど、夜が訪れると、チユの心に黒い影が忍び寄った。


窓の外で梟が遠く鳴き、月光がカーテンの隙間から冷たく差し込むとき、決まってあの声が蘇る。



――「君もいずれこちら側に来るだろう、必ず――」



地下の暗闇で、トム・リドルが消えゆく瞬間に吐き捨てた言葉。


その毒のような囁きは、チユの心に鋭い棘となって突き刺さっていた。
思い出すたびに、背中の羽根が、まるで鉛のように重く感じられた。


それは呪いなのか、祝福なのか。
チユ自身にもわからない。


ただ、魔力に頼らざるを得ない自分の存在が、どこかリドルの予言に近づいているのではないかという恐怖が、夜ごとに彼女を締め付けた。



(私……本当に“あちら側”じゃないって、言い切れるのだろうか……)



チユは膝を抱えてソファの端に縮こまった。
ランプの光が彼女の顔に柔らかな影を落とし、揺れる瞳に不安が映る。



この事を、リーマスに打ち明けたい――その思いは何度も胸をよぎった。


彼なら、穏やかな笑みを浮かべて「怖がらなくていい」と言ってくれるだろう。
リーマスはいつもそうだ、彼の言葉には、チユを包み込むような力があった。



でも、言葉にするのが怖かった。


リドルの囁きを口にした瞬間、自分がその可能性を認めてしまう気がした。


唇が震え、言葉は喉の奥で凍りついた。
チユはそっと目を伏せ、心に重い鍵をかけた。

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