第9章 ハローウィン
玄関ホールでは、フィルチが名簿を握りしめ、疑わしげに生徒たちの顔を睨んでいた。
まるで禁じられた者を見つけ出すハンターのような目つきだ。
「居残りか、ポッター?」
マルフォイの嘲る声が、ホールに鋭く響く。
クラッブとゴイルを従え、唇の端を吊り上げた彼の目は意地悪に光っていた。
「吸魂鬼の近くを通るのが怖いのか?」
チユは反射的にマルフォイを睨みつけた。
胸の奥で怒りが熱くなる。
「やめて。ハリーはそんなことで怖気づいたりしない」
その言葉に、マルフォイは鼻を鳴らし、軽蔑するように肩をすくめた。
ハリーは何も言わず、静かに背を向けて階段を上っていく。
その後ろ姿が、いつもより少し小さく見えて、チユの胸がぎゅっと締めつけられた。
「ねぇ、ハリー。わたし、なにかできることない?」
声が少し震えた。
ハリーをこのまま置いていくことが、どうしても耐えられなかった。
ハリーはかすかに笑い、肩をすくめた。
「ありがとう、チユ。でも大丈夫だよ。君たちが楽しんでくれる方が、僕には嬉しい」
その笑顔は優しかったが、どこか寂しげで、チユの心に深い痛みを刻んだ。
***
ホグズミードへの道は、きんと冷えた秋の気配を孕んでいた。
白い息が空に溶ける。
チユは列車を降り、ロンとハーマイオニーに「また後で!」と笑顔で手を振った。
「お待たせ、ジョージ!」
チユが声をかけると、ジョージが振り返り、ぱっと顔をほころばせた。
その笑顔はまるで陽光のようで、チユの胸をふわりと温めた。
「我が獅寮のお姫様、ついにお出ましだ!」
ジョージが大げさに手を広げ、茶目っ気たっぷりに言う。
「ご機嫌よう、麗しのお姫様!」
フレッドも片手を胸に当て、芝居がかった仕草で続ける。
「やれやれ、ジョージをなんとかしてくれよ」
リー・ジョーダンが苦笑しながら口を挟んだ。
陽気な声には、いつもの軽やかな音楽のような響きがある。
「君とのデートが楽しみすぎて、朝からソワソワしてるんだぜ」
「おい、リー!」
ジョージが真っ赤になって声を上げ、その慌てた様子にチユは思わずくすっと笑った。