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ハリー・ポッターと笑わないお姫様【3】

第8章 ホグズミードの知らせ



その夜、チユは決意を胸に、こっそりと職員室の前に立っていた。
静まり返った廊下のランプの灯が、彼女の影を長く伸ばしている。
躊躇いながらも、彼女は小さくノックした。



「どうぞ」
穏やかな声がした。


部屋の中にはリーマスがいた。


暖炉の火がやわらかく揺れ、彼の顔を橙色に照らしている。
机の上には、古びた本と数枚の半用紙、その上に、リーマスの羽根ペンが静かに置かれていた。



「チユ、どうしたんだい?こんな時間に」


チユは少しうつむきながら、
両手を胸の前で握りしめた。


「リーマス……その、ホグズミードの許可証のことなんだけど」



「ん?ああ、それならもう出しておいたよ」
リーマスは柔らかく笑い、ペンを置いた。

「君の分はちゃんと書いて、マクゴナガル先生に提出してある。みんなと楽しんでおいで」



チユはほっと息を吐いた――けれど、
その安堵はすぐに言葉の途中で揺らいだ。



「……ありがとう。でも、違うの。わたしのことじゃないの」
顔を上げ、まっすぐリーマスを見つめる。


「ハリーのことなの。リーマス……ハリーの許可証も、あなたが書いてあげられない?」



リーマスの表情が一瞬、静かに揺れた。
炎の影が彼の頬を掠め、
その瞳に、やさしさと迷いの光が浮かぶ。



「チユ……」


低く、深い声で名前を呼ばれただけで、チユの胸がきゅっと締めつけられる。




「ハリーも一緒に行かせてあげたいの、お願い」
チユの声は、懇願に近い切実さで震えた。



リーマスは椅子にもたれ、しばらく何も言わなかった。
チユは、彼が考えているあいだ、暖炉の火の音だけを聞いていた。


やがて、静かにため息が落ちた。



「チユ……優しい子だね。でも、私がサインすることはできないんだ」



その言葉は柔らかかったが、確かな拒絶でもあった。



「私があの子の保護者なら、どんな手を使ってでも許可してやりたい。
だけど、規則を破れば、ハリーに迷惑がかかる。あの子の立場を守るためにも、今は我慢するしかない」



チユは唇をかんだ。
頬に落ちた髪が震える。


「……そうだよね」



その夜、部屋を出たチユの頬には、暖炉の温もりと少しの涙の跡が残っていた。
石造りの廊下を歩くたび、足音が静かに響く。


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