第8章 ホグズミードの知らせ
ハリーたちが廊下に出ると、ロンが怒りを抑えきれずに吐き捨てた。
「なんだよ、ちょっとぐらいいいじゃないか!」
「ロン……」
ハーマイオニーが眉を寄せて言う。
「仕方ないのよ。規則は規則なんだから」
その「これでよかったのよ」という顔が、ロンの怒りをさらに燃え上がらせた。
チユは2人の間にそっと割って入り、小さく笑った。
「ねえ、ハロウィーンの日にはごちそうがあるでしょ、きっと楽しいよ」
ロンはまだ不満げに口を尖らせていたが、「……ごちそう、な」とぼそりと呟いた。
「そう。きっと甘いカボチャパイが山ほど出るよ」
チユが笑うと、
ハリーが少しだけ顔を上げ、かすかに笑った。
その笑みを見て、チユは思った。
(きっとジョージがなんとかしてくれる……。それにリーマスに頼めばもしかしたら…………)
誰がどんな言葉をかけても、1人取り残されたハリーの心は晴れなかった。
羽根ペンの扱いがうまいディーン・トーマスが、「バーノンおじさんのサイン、僕が上手く真似して書いてやろうか?」とこっそり提案してくれたが、ハリーは首を横に振った。
「もう先生に言っちゃったんだ。……サイン、もらえなかったって」
ロンは「透明マントを使えば?」と、少し無理のある提案をしたが、ハーマイオニーがすぐに反対した。
「だめよ!ダンブルドア先生が言ってたじゃない。吸魂鬼は、透明マント越しでも見抜けるって」
ロンが「くそっ」とつぶやく横で、
パーシーがまるで慰めるような、しかし最悪の口調で言った。
「ホグズミードなんて、たいした場所じゃないさ、ハリー」
と、真面目な顔で続ける。
「菓子屋はまあまあいい。でも『ゾンコのいたずら専門店』は危険すぎる。
『叫びの屋敷』なんて、1度行けば十分だ。ハリー、安心しろ。評判ほどの場所じゃない」
その瞬間、ハリーは顔を背け、談話室の暖炉の火をじっと見つめた。
揺らめく炎の向こうに見えるのは、みんなが笑って歩くホグズミードの通り――それを想像するたび、胸の奥に冷たい痛みが広がる。
チユはそんなハリーを見つめながら、何も言えずにいた。