第8章 ホグズミードの知らせ
「あの猫を捕まえろ!!」
クルックシャンクスは椅子を飛び越え、逃げるスキャバーズを追う。
「そっち行った!捕まえて!」ロンの声が響く。
「完全に遊ばれてるな、ロニー」
ジョージが笑う。
「おいおい、猫に負けるとは情けないぜ、ロニー坊や」
フレッドが横から茶化した。
2人の軽口の間を縫うように、クルックシャンクスは机から飛び降り、整理ダンスの下に逃げ込むスキャバーズを追い詰めた。
チユは呆然と立ち尽くしたまま、その光景を見つめる。
猫の背中の毛が逆立ち、低い唸り声をあげている。
「……止めなきゃ!」
駆け出したチユの隣で、ハーマイオニーがクルックシャンクスを抱き上げようと手を伸ばした。
「こら、やめなさい!クルックシャンクス!」
必死に引き離すハーマイオニーの腕の中で、猫は抵抗して低く唸った。
その間にロンが腹ばいになって床に手を伸ばし、
「……っ、いたっ! しっぽ、つかんだ!」
ぐっと引っ張ると、痩せこけたスキャバーズがひょろりと姿を現した。
ロンはそのまま立ち上がり、怒りをにじませた声で叫んだ。
「見ろよ!こんなに骨と皮になって!その猫をスキャバーズに近づけるな!」
「クルックシャンクスには、それが悪いことだってわからないのよ!」
ハーマイオニーが必死に言い返す。
「ロン、猫はネズミを追うものなの!本能なのよ!」
「そいつ、本能以上におかしいんだ!スキャバーズを狙ってる!」
ロンの声はヒートアップし、談話室の空気が一瞬ピリリと張り詰めた。
「……ロン、少し落ち着いて?」
チユはおそるおそる近づき、ロンの腕に手を伸ばした。
だがロンはその手を振り払うように立ち上がる。
「放っといてくれ!」
声が震えていた。
ロンは談話室を突っ切り、階段の方へと消えていった。
彼の後ろ姿を見つめながら、チユは胸の奥にざらりとした寂しさを覚えた。
いつも明るい談話室が、急に色を失ったように見えた。