第8章 ホグズミードの知らせ
チユはハリーの横で静かに頷き、そっと声をかけた。
「ハリー、私もリーマスに相談してみるよ。なんとかならないか聞いてみる」
ハリーは小さく笑って、チユを見上げた。
「ありがとう、チユ」
その時、ハーマイオニーの足元からふわっとした毛のかたまりが飛び乗ってきた。
「うわっ!」
ロンがのけぞる。
ハーマイオニーの猫、クルックシャンクスが膝の上に陣取り、その口には――巨大なクモの死骸。
「うげっ! わざわざ僕たちの前で食うなよ!」
ロンが顔をしかめ、青ざめる。
「お利口さんね、クルックシャンクス。1人で捕まえたの?」
ハーマイオニーが愛猫を撫でながら微笑む。
クルックシャンクスは黄色い目でロンを冷たく見上げ、そのままクモをバリバリとかじった。
チユが、口元を押さえる。
「…なんか、ちょっと誇らしげな顔してるよね、あの猫」
「誇らしいもんか!」
ロンがぶつぶつ言いながら、星座図を広げ始めた。
「スキャバーズが俺の鞄で寝てるんだぞ…そいつをそこから動かすなよ」
チユはふかふかのソファに腰を沈め、膝に広げた星座図を眺めていたが、ペンを握る手は止まったままだった。
ホグズミードの事を考えると、胸がざわめいて仕方なかった。
バタービールやハニーデュークスの甘い誘惑が頭をよぎり、チユの唇には自然と笑みが浮かぶ。
だが、その笑みはすぐに曇った。
隣に座るハリーの様子が気になったのだ。
ハリーはテーブルに突っ伏し、羊皮紙に星座図を書きかけているが、指はインク瓶の縁を無意識に叩いている。
あくびを噛み殺すハリーの目には、どこか遠くを見るような寂しさが宿っていた。
「ハリー、大丈夫?」
チユはそっと声をかけ、肩を軽く叩いた。
ハリーは顔を上げ、力ない笑みを浮かべる。
「うん、ただ…ちょっと疲れただけ。星座図、めんどくさいな」
チユはハリーの言葉に小さく笑い、羊皮紙を覗き込む。
「ほんと、先生たちって、なんでこんな宿題ばなり出すんだろうね」
チユの軽い口調に、ハリーの肩が少しだけ緩んだ。