• テキストサイズ

ハリー・ポッターと笑わないお姫様【3】

第7章 まね妖怪との対決



リーマスの言葉の余韻を胸に抱えたまま、チユは廊下を歩いた
夕陽が窓から差し込み、長い影を壁に刻む。


曲がり角の先に、ふと黒い影が揺れた。チユの足が止まる。


「……チユ」



低い、しかしどこか柔らかな声。
そこに立っていたのは、ゼロだった。

窓から差し込む淡い光を背に、彼の瞳は鋭く、けれどどこか寂しげに揺れていた。
まるで、夜の湖に映る月のように、静かで、深い。



「ゼロ……」
チユは小さく呟き、立ち止まった。彼女の心臓が、そっと跳ねる。



ゼロはゆっくりと近づいてきた。
その足音は、まるで影そのものが動くように静かだった。

彼の目の奥には、探るような、しかし優しい光があった。




「さっきの授業……」彼は目を細め、低く言った。

「ルーピン先生の前に、あれが出た瞬間。光の形が……“満月”に見えた。」





チユは息を呑んだ。

ゼロの勘は、まるで彼女の心の奥を切り裂くように鋭かった。
彼女の視線が一瞬泳ぎ、夕陽に染まる石壁に落ちる。



「……うん」と、かろうじて頷いた。
「そう……あれは、満月だったと思う。」




ゼロの瞳が、わずかに揺れた。
「やっぱり」と、彼の声は低く、しかしどこか温かかった。
「あの光が……ルーピン先生の“恐怖”なんだね」




しばらく、沈黙が流れた。
遠くで誰かの笑い声が響いては消え、廊下に差し込む光が2人の影を長く伸ばした。
チユの胸の奥で、何かがざわめいていた。



ゼロは小さく息をつき、ためらうように口を開いた。



「――君、前に言ってたよね。」


「……え?」チユの声がかすれた。



「“自分の大切な人も、人狼だ”って」


ゼロの視線が、チユをまっすぐに捉えた。
その瞳には、鋭さとともに、どこか深い共感が宿っていた。


「もしかして……それって、ルーピン先生のこと?」



チユの心臓が、激しく跳ねた。

言葉を出そうとしても、喉の奥で凍りついてしまう。
彼女の指先が、ローブの裾をぎゅっと握りしめた。



ゼロの表情が、ほんの少しだけ和らいだ。
けれど、その瞳には哀しみが揺れていた。


「大丈夫。誰にも言わないよ」


彼は視線を落とし、静かに続けた。
「ただ……身近に、同じ境遇の人がいるって、ちょっとだけ……心強いんだ」

/ 128ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp