第7章 まね妖怪との対決
黒い狼の影がもがき、やがてふっと縮んでいった。
そこに残ったのは――
子犬のように小さな黒い狼が、しっぽを追いかけてぐるぐると回っている姿。
笑いが起きた。
けれど、チユの胸は熱くなっていた。
ゼロがゆっくりと振り返り、チユと目が合った。
その瞬間、彼女の心臓がまたきゅっと締めつけられた。
彼の“恐怖”が、彼女自身の胸の奥に眠る影を呼び起こしていた。
自分を“怪物”だと思う者の、静かな覚悟。
チユはそれを、痛いほど理解できた。
「よくやった!」リーマスの声が、教室に響き渡った。
「みんな、素晴らしい!ボガートと対峙したグリフィンドール生には、1人につき5点を授与しよう。ネビルは10点だ、最初に果敢に挑んでくれたからね、ハーマイオニーとハリーも5点ずつだ。」
「でも、僕、何もしてない」ハリーが少し照れくさそうに言った。
リーマスはにっこり笑った。
「ハリー、君とハーマイオニーは、授業の最初に私の質問に正しく答えてくれた。それも立派な貢献だよ。」
チユはそっと微笑んだ。
リーマスのそんなさりげない優しさが、彼女は大好きだった。
「よし、みんな、いい授業だったね」
リーマスが手を叩いた。
「宿題だ。ボガートについて本を読んで、まとめを提出してくれ。月曜までだ。今日はこれで終わり!」
生徒たちは一斉に歓声を上げ、わいわいと話しながら教室を出ていく。
「ほんとにいい先生だよな!」
ロンが鞄を抱えながら上機嫌に言った。
「スネイプがあんな格好になるなんて、最高だったじゃないか!」
「ええ、あれは見事だったわ」
ハーマイオニーがくすくす笑いながら頷く。
「ネビルも、やればできるのよね」
「なあ、チユ」
後ろからロンの声が飛んできた。
「え?」
「君のボガート、あれ……なんだったんだ?」
――心臓が、跳ねた。
一瞬、空気が止まったように感じた。
ロンの顔を見る勇気が出なくて、チユはぎこちなく笑おうとした。
「え、えっと……あれ、ね……」
「羽根、だったよな?」
その言葉に、チユの呼吸が止まる。
背中の奥が、ひやりと冷たくなった。
まるで秘密の扉を突然開けられたような感覚。