第7章 まね妖怪との対決
チユは目を閉じた。
心の奥で、昔リーマスがくれた言葉がよみがえる。
それは、羽根を隠してうつむいていた夜のこと。
チユが自分の背中を恥じ、縮こまっていたとき、 リーマスはそっとマントを彼女の肩にかけ、暖炉の火のそばでこう囁いた。
「それも君の一部なんだ。どうか自分を責めないでほしい」
「君の羽根は、とても美しいよ」
その言葉が、チユの心に小さな灯りをともす。
チユは震える唇をひらいた。
「……リディクラス!」
杖の先から光が弾け、黒い羽根が一斉に色を変えた。
真っ黒なそれは――ピンク、青、金、そして虹色の羽根に。
ぱたぱたと踊るように舞い上がり、ボガートのチユの顔が驚いたようにほころぶ。
そして――ぱん、と音を立てて、
その姿は小さなカラフルな鳥の群れになって飛び散った。
生徒たちから拍手が起きる。
ハーマイオニーが「すてき!」と声をあげ、ロンが目を丸くした。
チユは胸に手を当てて、ようやく息を吐く。
リーマスがそっと近づいてきた。
「よくやった、チユ。怖さを知っている人ほど、強くなれるんだ」
その言葉に、チユは小さく微笑んだ。
頬をかすめた虹色の羽根が、彼女の心の奥に隠された“秘密”をそっと抱きしめ、
まるで許されたような安堵を運んできた。
「それじゃあ、次は君の番だ。ロン」
リーマスの声が響く。
ロンが大きく息を吸い込み、勇気を振りしぼって前に飛び出した。
パチン!
一瞬にして、空気がざわめいた。
生徒たちの悲鳴が重なり、チユの肩がびくりと跳ねる。
目の前に現れたのは、毛むくじゃらの巨大な蜘蛛。
8本の脚がギラギラと光り、まるで鎖を引きずるように鉄を鳴らしている。
ロンの顔から血の気が引き、ハリーが息を呑んだのが見えた。
――でも。
「リディクラスッ!」
ロンの声が教室に響いた。
次の瞬間、蜘蛛の脚がふっと消え、巨大な体がごろごろと転がりはじめる。
ラベンダーが金切り声を出して蜘蛛をよけた。
足元で蜘蛛が止まったので、チユは杖をかまえた。
が―――。
「こっちだ!」リーマスが、急いで前に出てきた。
パチン!
脚なし蜘蛛が消えた。一瞬、どこへ消えたのかと、みんなきょろきょろ見回した。