第7章 まね妖怪との対決
リーマスが声を上げた。
「パーバティ、前へ!」
パーバティがキッとした顔で進み出る。
再びボガートが動き、スネイプの姿がぐにゃりと歪んで――次の瞬間、血まみれの包帯をぐるぐる巻いたミイラへと変わった。
目のない顔。引きずるような足音。
その手が、ゆっくりとパーバティに向かう。
「リディクラス!」
彼女の声が響くと同時に、ミイラの包帯がほどけて、回転するミイラがバナナの皮で滑り倒れたような格好になり、再び笑いが起きた。
笑い声の中で、チユはそっと自分の胸に手を当てた。
自分の番が近づいている。
どんな姿でボガートが現れるのか――
想像するだけで、足がすくむ。
唇が小さく震えた。
杖を握る指が汗ばむ。
でも、そのとき――リーマスの声が、また教室を包んだ。
「いいぞ、みんな。恐れは、笑いで追い払うんだ。それができた時、人はきっと、強くなれる」
その言葉に、チユの胸の奥で、何かが小さく灯った。
それは勇気と呼ぶにはあまりにも儚い光だったけれど――
確かに、あった。
次の瞬間――
リーマスの声が、彼女の名前を呼んだ。
「さあ、チユ。君の番だよ」
リーマスの穏やかな声が、まるで春風みたいに響いた。
チユは一歩、前へ出た。心臓が、喉の奥で暴れる。
リーマスが優しく頷いた。
「怖がらなくていい、私がそばにいる。君の中の“恐怖”を、笑い飛ばすんだ」
チユは唇を噛みしめ、杖を構える。
洋だんすの取っ手が、ギギギ、と音を立てて回り始め
次の瞬間――
暗い羽根が、1枚、2枚と扉の隙間からこぼれ落ちた。
その羽は黒く濡れ、床に落ちた瞬間、ひゅうっと風に溶けて消える。
(やめて……出てこないで……!)
バサッ、と音がして、ボガートが姿を現した。
そこに立っていたのは――チユ自身だった。
だが、その背中には無数の黒い羽根が生え、痛々しい羽音を立てている。
もう1人のチユは、泣きそうな目で本物のチユを見つめていた。
「…見ないで……」
チユは小さくつぶやいた。
背中がぞくりとする。教室中が息を呑んでいるのがわかる。
羽根がひとひら、ふわりと宙を舞い、彼女の足元に落ちた。
リーマスの声が届く。
「チユ、思い出して――“リディクラス”だよ」