第7章 まね妖怪との対決
――何度も見た夢。リーマスが自分を忘れてしまう夢。
――名前を呼ばれなくなる、冷たい夢。
胸の奥で、音のない悲鳴が響く。
怖い。怖くてたまらない。
けれど、同時に、そんな自分を弱く情けないと感じ、涙がこぼれそうになる。
一体、ボガートはどんな姿で現れるのだろうか――。
「……チユ?大丈夫?」
隣でハーマイオニーが小さく声をかけた。
チユは顔を上げ、無理やり笑ってみせた。
「ううん、平気。……ちょっと考えてただけ」
彼女は視線をリーマスに向ける。
彼はまるで心の中を読んだように、やわらかく目を細め、穏やかに微笑んでいた。
その優しい瞳に、チユはすこしだけ呼吸を取り戻す。
あたりを見回すと、目をぎゅっとつぶっている生徒が多かった。
ロンはぶつぶつと何かを唱えている。
「肢をもぎ取って……」
それが何のことかすぐにわかった。
ロンが何よりも怖いのは――蜘蛛だ。
リーマスの声が静かに響いた。
「みんな、いいかい?」
空気が一瞬で張りつめる。
「ネビル、私たちは下がっているからね」
リーマスが言った。「君に場所をあけてあげよう。いいね?私が声をかけたら、次の生徒が前に出る。……さあ、みんな下がって」
クラス全員が後ろに下がり、ネビルがひとり、洋だんくの前に取り残された。
その姿は震えていたけれど、どこかで覚悟を決めているようにも見えた。
袖をたくし上げ、杖を構える手がわずかに揺れる。
チユは胸の中で小さく応援した。
「ネビル、3つ数えてからだ」
リーマスの声が落ち着いていた。まるで優しい魔法のように。
「いーち、にー、さん、それ!」
リーマスの杖先から火花がほとばしり、取っ手を打った。
扉が勢いよく開き、現れたのは――
黒いローブの、恐ろしく険しいスネイプ先生だった。
「うわ……!」
誰かが息を呑む。
ネビルは思わずあとずさりし、声を上ずらせながら叫んだ。
「リ、リディクラス!」
パンッ、と音が響いた。
次の瞬間――スネイプの姿が、ハゲタカの帽子をかぶった婦人に変わった。
そのあまりの姿に、教室中が爆発するように笑い出した。
あの厳しいスネイプが、まるでお茶会に出かけるご婦人みたいに立ちすくんでいる。