第99章 逢いたくなったら〜冨岡義勇 時透無一郎 【R強】
ゆきは、早目に甘露寺の屋敷から待ち合わせ場所に来ていた…ある事を確認する為に…
「本当に、毎日来ていたんだ…」
息が詰まる。
彼がいつも背を預けていたであろう太い幹の表面には、羽織が擦れたような微かな跡と、踏み固められた土の窪みが残されていた。
これは…?何?
目の前には、小石が逢えない夜の数だけ木の下に積み重ねられていた。
ここに来れば、いつか私が現れるかもしれない…。
彼は毎晩この暗闇の中に一人で佇んでいたのだった。
昨夜、無一郎と肌を重ねて取り戻した温もりが、急激に冷やされていくような錯覚に陥る…。
無一郎の愛は、ようやく元の真っ直ぐな形に戻った。ここで彼を裏切るわけにはいかない…。
けれど、この石積みに込められた義勇さんの、切実な想いを無視することも、今の私にはできなかった…。
義勇さん…、ごめんなさい…
拒絶しなければいけないのに、胸を締め付ける愛おしさと罪悪感に抗えない…。
私はしゃがみ込むと、足元に落ちていた小さな石を一つ、震える指先で拾い上げた。
カタン、と微かな音が響く。
義勇が作った歪な塔のてっぺんに、ゆきは自分自身の手で、新たな石をそっと積み上げてしまった。
こんな事をすれば…私がここに来た証拠になる…
ハッと我に返り、激しい自己嫌悪と恐怖が押し寄せる。
遠くから微かに聞こえた足音に、ゆきは急いでその場を飛び退いた。
「ゆき」
振り返ると、美月との稽古を終えた無一郎が、いつもの無垢な笑顔でこちらに歩いてくるところだった。
「待たせてごめんね。…どうしたの? そんなところで」
「ううん、今来たところだよ」
私は引き攣りそうな頬を必死に動かして微笑む。
無一郎は不思議そうにゆきを見つめ、それから一瞬だけ、ゆきが先ほどまでいた大きな木の根元へと視線を向けた。
心臓が跳ね上がる…。
ゆきは慌てて無一郎の手を引き無邪気にはしゃいだ。
「早く甘いもの食べに行こう。無一郎くん」
無一郎は、昔の明るいゆきが戻ってきたようで嬉しくなり手を引かれるまま街に向かった。