第100章 期待〜時透無一郎 冨岡義勇【R強強】
その日の晩、義勇はいつも通り、川辺の木の下に現れた。
昼間の喧騒を忘れたように静まり返る夜。
いつものように太い木の幹に背をもたれ掛け、小さく一息をつく…。
遠くに見える街の灯をぼんやりと眺めながら、しばらく冷たい夜風に身を委ねていた。
視線は、待ち続けている彼女へと続くはずの暗い一本道に向けられるが、そこにはただ寂しげな風が吹き抜けるだけ…。
「…ゆき」
届くはずのない名前が、夜露に溶けて消える…。
義勇は諦めたように視線を落とし、いつものように足元の小石を一つ拾い上げた。
逢えない夜の数だけ重ねてきた、石の塔。
そこに新たな石を積み上げようとした…その時だった。
義勇の指先が、ピタリと止まる。
「これは…」
塔のてっぺんに、見覚えのない小さな石が一つ、不器用に載せられていた。
自分が積んだものとは違う。まるで、誰かがそっと置いたかのような石…。
ドクン、と胸の奥が激しく脈打った。
もしかして…ゆきが、来たのか…?
胸の奥底から、信じられないほどの淡い期待がせり上がってくる。
いや、ただの子供の悪戯だろう…。
それとも、俺の勘違いか?
否定しようとすればするほど、愛おしい彼女の面影が頭を支配していく…。
もし、これがゆきの残した痕跡なら。
自分を拒絶し、別の誰かを選んだはずの彼女が、ここへ来て、この切実な想いに触れてくれたのだとしたら。
「ゆき…本当に、来てくれたのか…? 今日、ここに…」
こみ上げる愛おしさと切なさに、義勇は居ても立ってもいられなった。
積まれた石にそっと触れる義勇の指先は、震えていた。
「俺を、想ってではなく何か辛いことがあったのか?それで俺の手紙を、思い出しここに来たのか?」
義勇の頭の中は、もうゆきでいっぱいになっていた…。
ゆき…心配だ…
逢いたい…