第99章 逢いたくなったら〜冨岡義勇 時透無一郎 【R強】
朝食を終え部屋を出ようとするゆきに無一郎は声をかけた。
「ゆき、今日の午前は美月と稽古するから、午後は一緒に街に出ない? 甘味処に行こうよ」
微笑む無一郎に、ゆきは小さく目を見張った。
ここ一ヶ月の冷めきったすれ違いが嘘のように、今の彼は以前の、ゆきを真っ直ぐに愛してくれる無一郎に戻っている。
昨夜、互いの体温を確かめるように重ね合った時間が、彼の頑なな心をすっかり溶かしたのだった。
「うん、嬉しい…」
微笑みつつも、ゆきの胸には喜びと、それ以上の戸惑いが渦巻いていた。
「私は午前中、甘露寺さんのところで稽古の見学をさせてもらう約束をしているから、どこかで待ち合わせでもいいかな?」
「いいよ。じゃあ、街と甘露寺さんの屋敷の中間にある川辺はどう? あそこ、一本大きな木があるでしょ。あの下にしよう」
その瞬間、ゆきの心臓が止まりそうになった。
『逢いたくなったら、昨日会った川辺に来い。任務がない夜は必ず行くようにする。』
脳裏をよぎったのは、義勇から手渡されたあの手紙の一節。彼が毎晩、来るかもわからない自分を待ち続けているという、静かな川辺。まさか、その場所を指定されるなんて。
「あれ? わかりにくかったかな?」
動揺で固まったゆきの顔を覗き込み、無一郎が不思議そうに首を傾げる。
「ち、違うの! 違うよ…わかるよ、あの大きな木の下だよね」
ゆきを愛おしそうに見つめると、無一郎は美月の視線も気にせず、彼女を強く抱き寄せた。
「昨日は、君を久しぶりに感じられて幸せだったよ…」
耳元で囁かれた甘い声に、首筋の不自然な赤みがさらに熱を帯びる…。
「本当なら、今だってまたしたい…」
「な、何言ってるの、無一郎くん」
顔を真っ赤にするゆきを見て、無一郎は悪戯っぽく笑うと、髪を優しく撫でた。
「ごめんごめん。じゃあ、後でね。あの川辺で」
少年らしい無邪気な笑顔を残して、無一郎は稽古へと向かう。その背中を見送りながら、ゆきはそっと胸元に手を当てた。
無一郎の不器用で一途な愛に満たされながらも、頭の片隅では、川辺でぽつんと佇む義勇の寂しげな背中が消えてくれない。
義勇さん…