第96章 さようなら〜冨岡義勇
気が付けばゆきは、無一郎の屋敷の門をくぐっていた。
ゆきの頭の中では、まだ義勇の「愛している」という言葉が繰り返し響いている。
頬を伝う涙を袖で乱暴に拭うが、目元に残る熱までは消せない。
門をぐぐってすぐの場所に、立っていた無一郎の姿が見えた瞬間、ゆきは息を呑んだ。
「お帰り。あれ?羽織は?もしかして返したの?」
無一郎の純粋な問いかけは、今のゆきには酷だった。
ゆきは言葉を返すこともできず、小さく頷いてただ無一郎の横を通り過ぎた。
無一郎の戸惑いと不安を感じるが、振り返る勇気はなかった。
その晩、ゆきの部屋の襖が静かに開いた。
遠くを見つめて動かないゆきに、無一郎が迷いながら近づき、抱きしめようと手を伸ばした…しかし、ゆきは本能的にそれを避けてしまった。
「ゆき…?」
「今夜は、一人で眠りたいから…ごめんなさい」
ゆきは力なくそう告げて部屋を出た。
「ちょっと!何処に行くの?」
無一郎は、ゆきの腕を掴み引き止めた。
「…」
「何?そんなに、冨岡さんの継子辞めたくなかったの?」
その言葉に、ゆきは、はっとする。
無一郎は、真剣な目でじっとゆきを見据えたまま手を離さない。
「お館様には、話したよ…継子の件は、認めるも認めないも本人達の意志に委ねるとの事だった。後…君を鬼殺隊から除隊させたい旨も伝えた。」
ゆきは、俯き黙って無一郎の話を聞いた。
「明日からは、隊服は着なくていいよ。君に似合いそうな着物を用意したからそれを着ればいいから。」
「…うん。」
無一郎が、そっとゆきを抱き寄せた。
「いきなり環境が変わり不安だと思うけど僕が側にいるから大丈夫だよ。」
優しく私の髪を撫でてくれる無一郎くん…。
義勇さんの腕の中の感触…義勇さんの香りが今も鮮明に残っている…私はそれを、忘れたくなかったのか…無一郎くんを強く突き放してしまった。
急なゆきの許否に戸惑う無一郎…
「ご、ごめんなさい…今夜は本当にそっとしておいて」
無一郎は、不安そうな表情で黙って部屋から出て行った。
ごめんね…無一郎くん…
今夜だけは…一人で過ごさせて