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鬼滅~甘い恋の話~時透無一郎、冨岡義勇★R18

第96章 さようなら〜冨岡義勇


台所は、隠たちの活気に満ちていた。ゆきが懸命に包丁を握り、鮭を煮付ける姿を、彼らは温かい目で見守っている。

「ゆき様、これは柱もさぞ喜ばれますよ! 最近、あまり食事を召し上がっていないので心配で…」

隠の一人が言うと、ゆきは「沢山作ったから、夕食にも出して差し上げてくださいね」と、微笑みを浮かべた。

隠達は、ゆきの横顔に宿る覚悟までは計り知れない。

ただ、「柱の荒んだ心を癒せるのは、ゆき様しかいない」と、二人こそが結ばれるべきだと心から信じていた。

やがて運ばれた膳。

縁側で待つ義勇の元へ呼びに向かうゆきの背中を、隠たちは「幸せになってほしい」という切実な願いを込めて見送った。

ゆきに連れられ部屋に入った義勇は、並べられた膳と、好物の鮭大根を見て目を丸くした。

「私が、作りました」

ゆきの言葉に、義勇は動揺を隠せない。

先ほど道場で感じた気まずさとは別の、言いようのない安らぎが胸を満たす。

だが、ゆきは配膳を終えると、隠たちから見えないところで、震える指先を必死に羽織の袖の中に隠していた。

  …最後くらい、笑顔でいてほしいから

今日が最後だという真実を、ゆきは誰にも告げず胸の奥に閉じ込めている。

一口運ぶごとに義勇が浮かべる満足げな表情。

それを見るたび、ゆきの胸は張り裂けそうだった。

明日からは、もうこの表情には逢えない…今日が最後

「…うまい」

義勇が不器用に呟く。

その温かな表情を見て、ゆきは泣き出したい衝動を必死に堪えた。

隠たちが願う「幸せな未来」は、今の二人にはもう、ほんの数時間しか残されていない…。

 この時間を、一秒でも長く刻んでおきたい

義勇は、今日のゆきに淡い期待を抱き、「これからもずっとこうして共にいられる」と信じている。

そんな、残酷なすれ違い…

明日からは、もうここには来ない…

ゆきはただ、最後の今日だけは、義勇の隣で微笑み続けることだけを選んでいた。

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