第95章 切ない雨宿り〜冨岡義勇
数時間前まで降り続いた雨は、嘘のようにやんでいた。
部屋に差し込む朝日は、昨夜の嵐とは対照的にどこまでも澄み切っていて、穏やかだった。
けれど、布団の中に横たわるゆきの心には、重たい雲が居座ったままだった。
無一郎の腕の中で、ゆきは硬く体を強張らせていた。
「ねぇ、どうして何も答えてくれないの?」
静かな声で問いかけられ、ゆきは震える声でこたえた…。
「…辞めたくない」
「なに?」
無一郎の声色が、瞬時に低くなる。
ゆきは、それでも消え入りそうな声で繰り返した。
「義勇さんの、継子のままいたい」
次の瞬間、ゆきは視界が反転し、布団へと強く押し付けられた。
無一郎がゆきの顔のすぐ横に強く手を突き、怒りや嫉妬に満ちた眼差しで見下ろしている。
「はぁ? 君は何を言っているの?」
苛立ちを隠そうともしない無一郎の指先が、強引にゆきの顎を掴み上げた。
逃げ場のない視線が絡み合い、ゆきは呼吸を忘れるほどに追い詰められる…。
「駄目だ。継子は解消してもらう。今日の稽古で冨岡さんにきちんと伝えるんだよ。僕はお館様に報告しに、今日行ってくるから」
冷たい宣告を残し、無一郎はゆきを解放した。
こんな乱暴な無一郎を、見たのは初めてだった。
彼をそこまで追い詰めてしまったのは誰のせいなのか?他ならぬ自分だ…
自分のせいで無一郎が壊れていくのを感じるたび、胸の奥が千切れるほど痛む。
「支度して、最後の稽古に行きなよ」
背中越しに響いたその言葉は、まるで義勇とのさよならの合図のように冷たく響いた…。
今日の稽古が終われば、本当に全てが変わってしまう…。
なぜだか涙が溢れてきた…義勇さんと私は…繋がりがなくなる…
だけど、それでいいじゃない…
近くにいると…私の気持ちが揺らぐから…
離れて会えなくなる方がお互いの為…
ゆきは涙を拭い、重い体を引きずるようにして、最後となるであろう稽古場への支度を始めた。