第95章 切ない雨宿り〜冨岡義勇
その頃、無一郎は部屋の襖を開け放ち、荒れ狂う雨をただ静かに眺めていた。
縁側を容赦なく叩く雨粒に、胸の奥がざわつく…。
「こんな嵐の中、本当に街を巡回なんてしているの?」
ふと、そんな疑念が頭をよぎる。
どこか別の場所で、二人が肌を寄せ合っているのではないか?
そんな想像を打ち消すように、無一郎は強く頭を振った。
鴉さえ飛ばせないこの天候だ。信じるしかない。ゆきは僕を選んでくれたんだ。
無一郎はそう心に決め、静かに襖を閉めた。
一方、宿では体温を取り戻したゆきが、義勇の腕の中で安らかな寝息を立てていた。
義勇はゆきの髪や首筋を愛おしそうに愛撫し、その寝顔を見つめ続ける。
「こんなに愛しているのに…お前は時透を選んだのか」
やがて義勇も、愛おしいゆきを抱きしめたまま、眠りに落ちていった。
どれほどの時間が経っただろうか。激しい雨音にゆきは目を覚ました。
目前にある義勇の顔に驚き、反射的に離れようとした。
その時、義勇の頬に一筋の涙の跡を見つけた…
「義勇さ…ん?泣いたの?」
ゆきの胸が締め付けられる…。
中途半端な関係は、彼を傷つけるだけだ。きちんと線引きしなくては…師範と継子だけの関係にならならくては…
ゆきは絡められた腕を静かに解くと、まだ湿り気の残る隊服を纏い、部屋を後にした。
雨は夜明け前だというのに、容赦なく街を叩きつけていた。
冷たい雨粒を肌に受けながら、ゆきは無一郎の待つ屋敷へとひた走る…。
少しして、義勇は腕の中の温もりがなくなっている事に気が付き目を覚ました。
隣にはもうゆきはおらず、干していたはずの隊服も消えている。
帰ったのだと悟った瞬間、義勇の両目からとめどなく涙が溢れ出た。
ゆき…俺は本当は、こんなにも泣き虫なんだ…お前が居ないと…
止まない雨の中、義勇はゆきの残した甘い香りが残る布団に静かに横になり届かない名前を呼んだ…
「ゆき…」