第95章 切ない雨宿り〜冨岡義勇
雨に打たれ続け、氷のように冷え切ったゆきの身体は、激しい震えが止まらない。
義勇の腕から逃れようと微かに身をよじるものの、心身ともに限界を迎えたゆきの指先には、もはや抗う力など残されていなかった…。
宿屋の主人が申し訳なさそうに案内した先は、小さな一組の布団が敷かれただけの狭い部屋。
灯りがわずかに揺れる中、義勇は有無を言わせぬ所作でゆきを畳へ下ろすと、自身の濡れた隊服とシャツを脱ぎ捨てた。
露わになった逞しい胸板と引き締まった筋肉が、狭い空間に男としての熱気を充満させる…。
「悪いが、失礼する」
低い声とともに、義勇の大きな手がゆきの羽織を脱がせていく。
突き放そうと上げた手は力なく震え、「やめて」の言葉さえも吐息になって消えていく。
義勇の瞳は、切ないほどに真っ直ぐだった。
濡れて肌に張り付いた隊服のボタンを、義勇は慣れた手つきで一つ、また一つと外していく。
剥き出しになった素肌に冷たい外気が触れるたび、ゆきは恥じらいと罪悪感に目をぎゅっと閉じた。
無一郎への想いが胸を締め付け、義勇の温もりがそれをかき乱す。
すべての衣服を取り払われ、肌着一枚になったゆきを、義勇は自身の身体で包み込むようにして布団の中へと引き寄せた。
「…こんなに冷えて。寒かったな…風邪を引かぬように抱きしめてやろう。」
義勇の熱い肌が、ゆきの凍える肌に重なる。
逃げ出したいという本能と、この温もりに縋りたいという心がせめぎ合い、ゆきの瞳からひと筋の涙が零れ落ちた。
義勇はその涙を親指でそっと拭い、ゆきのおでこに、自らのおでこを預けた。
「俺のことなどどう思ってもいい。だが、このまま凍えて風邪を引かせたくない」
拒むことさえ許さない義勇の想いが、ゆきの意識を真っ白に染めていく。
冷え切った身体に、義勇の体温が溶け込み、抵抗する術を奪う。
ただ雨音だけが激しさを増す夜…ゆきは、自身の逃げ場がどこにもないことを悟り、義勇の腕の中で小さく震え続けることしかできなかった。