第94章 新たな生活〜時透無一郎 冨岡義勇【R強】
降りしきる雨音が激しさを増す、義勇の吐息は耳元で熱を帯び、ゆきの気持ちを混乱させる。
「駄目だと…お前はいつもそうやって、俺を突き放す」
義勇の言葉にゆきは、胸を刺される。
その言葉に、無一郎への後ろめたさがゆきの中で音を立てて崩れそうになる。
けれど、だからこそ、このまま義勇に溺れてはいけないと本能がゆきを引き止めた。
「…ごめんなさい、義勇さん」
一瞬、義勇が愛おしげに頬を撫でたその隙を突き、ゆきは力を振り絞って義勇の胸を突き飛ばした。
不意を突かれた義勇がわずかに後退る。
その僅かな隙を逃さず、ゆきは土砂降りの雨の中へと駆け出した。
「待て! ……どこへ行く!風邪を引く!」
義勇の呼び声が雨音に掻き消される。
濡れた地面を泥だらけになって走りながら、ゆきは無一郎の元へ帰ろうとしたが…こんな濡れた姿で帰れば色々と問い詰められる…
ゆきは、どこへ行けばいいのかわからなくなった。
背後から追ってくる足音に、義勇の切迫した気配を感じる。
街の角を曲がり、人気のない路地裏へ足を踏み入れた。
心臓が早くなり、雨の冷たさと罪悪感の熱さが混ざり合い、息が詰まりそうになる。
「逃げられると思っているのか。」
雨の向こうから、義勇の静かな声が響いた。
立ち止まれば捕まってしまう。けれど、行く宛がない。
激しい雨の中、ゆきの走る速さがどんどん落ちていく
義勇が後から簡単にゆきを、抱きかかえた。
「捕まえた。」
抱き上げたゆきからは、水が滴り落ちる…それに体が小刻みに震えていた。
「震えるぐらい俺が嫌なのか?」
何も答えないゆき…後から抱き上げたゆきを今度は横抱きにした。
まだガタガタと震えるゆきの顔を見ると、青白い…
「おい?具合が悪いのか?雨に当たったから冷えたのか?」
先程全力で、走った為息も荒い…
「だ、大丈夫です…下ろしてください」
目が虚ろで、焦点が定まらないゆき…
義勇は、街の中をゆきを抱えて走りある場所にたどり着いた。
「夜分にすまない。二人今夜泊まれる部屋は、あるか?」
そう、義勇が探していたのは、宿屋だった。