第94章 新たな生活〜時透無一郎 冨岡義勇【R強】
義勇は、ゆきの言葉に従うようにして食事が用意された部屋へと向かった。
整えられた膳の中に、自身の好物である鮭大根を見つけ、わずかに目を見開く。
ゆきが配膳を指示したのだろうと察し、義勇は静かに箸を手に取った。
一口、口に運んだ瞬間、義勇の動きが止まる…。
舌の上でほどける優しい味わい。それは、かつてゆきが初めて自分のために作ってくれた、あの時の味そのものだった。
その料理の温かさが、冷え切っていた心を内側から溶かしていく。
その時、傍らに控えていた隠が、いたたまれない様子で口を開いた
「ゆき様には、くれぐれも内緒にと口止めされていたのですが」
隠は震える声で、今朝早くにゆきが自ら台所に立ち、すべて一人で調理していたことを伝えた。
「ゆき様に最近柱が食欲も無いことを話したので心配なさったのだと思います。」
その事実を知った瞬間、義勇の胸の奥で、張り裂けそうなほどの熱が込み上げた。
自分を拒絶し、別の誰かを選んだはずのゆきが、なぜこれほどまでに自分を想うのか…。
期待していいのか?
義勇は用意された食事を一気に平らげると、衝動に駆られるように道場へと急いだ。
道場では、ゆきが黙々と木刀を振るっていた。
懸命に鍛錬に打ち込むその姿は、あまりにも健気で、どこか儚い。
義勇は、あふれ出す感情を抑えることができなかった…。
ゆきの背後へ歩み寄った義勇は、返事も聞かぬまま、その体を後ろから強く抱きしめた。
「…ゆき」
ゆきは、驚き床に木刀を落としてしまった。
「ぎ、義勇さん!?は、離してください」
「俺の為に、鮭大根作ってくれたのか?」
耳元で、弱々しい声で義勇が囁く…柱とは思えないほど優しく弱い声だった…。
「あの…食事は…きちんと取ってください。」
「わかった。きちんと食べる」
義勇は、ゆきの項に顔を埋めながら体をさらに密着させる。
「義勇さんっ?離れて下さい」
体を捩るゆき
項から首筋に顔を埋めて離れない義勇…
「義勇さん!」
ゆきは、力いっぱい体を捻り振りほどいた。