第94章 新たな生活〜時透無一郎 冨岡義勇【R強】
義勇さんは、いつもと変わらない様子で稽古をつけてくれた。
昨日、義勇さんが私と無一郎くんに向けて放った、あの真っ直ぐで切実な告白。しのぶさんとの婚約を破棄し、「お前が好きだ」と言い切った。私に愛をぶつけてきた。
けれど、私は…それに答えずに、無一郎くんの手を取った。
義勇さんはそんな私に対して、特別な感情を見せることなく、ただ無言で剣を振るい続けていた。
拍子抜けするほどの平穏に安堵を覚えつつも、その奥底にある義勇さんの寂しさに、私は胸が締め付けられる。
稽古が終わり私は、帰り支度を整え、道場を後にしようとしたとき、義勇が屋敷を出ていく姿を目にした。
近くの隠に、思わず聞いた
「師範は、こんな時間からどちらへ行かれるのですか?」
隠たちは顔を見合わせ、口ごもった。
一人が困ったように言葉を濁すなか、もう一人が小さな声で教えてくれた。
「…夜の警備ですよ。最近は隊士たちに任せず、柱ご自身で巡回されているんです」
その言葉に、息が止まりそうになった。いつも夜の警備は二人で行くことが多かったからだ、もう私には声をかけず一人で…。
「それなら……私も行くべきですよね?」
「まあ、そうですが…ゆき様に声をかけないのであれば、今の柱には必要ないのでしょう。大切な人を危ない目になるべく合わせたくないのでしょう。胡蝶様との事も決着はついたようですし、よりいっそうゆき様が大切なんでしょう。愛ですね!」
隠たちは、まだ二人の間に流れる結末を知らない。私の選んだ道を知らない彼らの言葉が、かえって義勇さんの抱える孤独を際立たせる…。
「いつもは、夕食を取って行ってたのに最近は、何も召し上がらずに行ってるの?」
「はい。夜食だけでいいと明け方に戻って来て少し召し上がるだけですね。」
「私が稽古に来ない間にそういう生活になってたんですか?」
「正直ゆき様が居ないと柱は、元気も食欲もありません…ですから早くお二人には幸せになって欲しいと私共は思っております。」
ゆきは、複雑な気持ちになった…
ご飯、きちんと食べてないんだ…
それに隠の人達は私達の仲を誤解してる…
一瞬義勇の後を追うか頭を過る、しかし足が義勇の向かう方へ動かなかった…ゆきは無一郎の待つ屋敷に戻って行った。