第93章 産屋敷邸での波乱〜時透無一郎 冨岡義勇【R強】
産屋敷邸へ向かう道中、ゆきは一言も口を利かなかった。
隣を歩くゆきの手を取って、このまま二人でどこか遠い場所へ消えてしまいたい。そんな身勝手な妄想が、ずっと俺の頭から離れなかった。
産屋敷邸に着くと、すぐに無一郎がゆきに気づき、こちらへ駆け寄ってきた。
「遅かったね」
無一郎はそう言うと、当然のようにゆきの背中に腕を回し、自分のほうへ引き寄せようとする。
その瞬間、俺の中に嫉妬心が湧いた。
俺は無一郎の腕から、強引にゆきを奪い返した。
「なにをするんですか、冨岡さん」
無一郎の顔から、いつものあどけなさが消え、俺を睨みつけるその瞳には、隠しきれない敵意が宿っていた。
「俺達は先にお館様に、話があるんだ。ゆき中に入るぞ」
俺はゆきの肩を抱き寄せ、無一郎と彼女の間に立ちはだかり、自分のものだと言わんばかりに彼女に触れた。
俺の態度に、無一郎の表情が険しくなる…
「僕のゆきだよ。気安くゆきに触れないでただの師範でしょ?」
無一郎が冷たい声で俺に言い返す。
二人の間に張り詰めた空気が流れた、その時だった。
「あらあら…皆さん、ゆきさんの取り合いですか?」
現れたしのぶが、羽織の袖で口元を隠しながら呆れたように言いました。
「これから柱合会議ですよ。お館様の前で、少しは落ち着いてはどうですか?」
しのぶの鋭い視線が俺たちに突き刺さる。
しかし、俺の中で燃え上がるこの想いは、もう誰にも止めることはでない。
俺は隣にいるゆきの震える肩をしっかりと抱きしめ、真っ直ぐに無一郎を見つめ返した。
「今から会議の前に俺はある事をお館様に伝えてくる。」
無一郎は、不可解そうな表情で聞き返す
「何を伝えるんですか?」
義勇は、無言でゆきの手を引き屋敷の中へと入って行った。