第93章 産屋敷邸での波乱〜時透無一郎 冨岡義勇【R強】
「義勇さん…本当に困ります」
震える声で告げながら、ゆきは必死に義勇の胸から逃れようと体を引く。
しかし、義勇の腕は硬く、ゆきをその温もりに閉じ込めたまま離そうとはしない。
「今日の柱合会議で、宣言する」
義勇の低く、迷いのない声がゆきの耳元で響く。
「胡蝶との婚約は破棄する。…それと、俺はお前が好きだ。お前と婚約したいと、お館様に伝える」
その言葉の重みに、ゆきは息を呑んだ…。
胸が押し潰されるような罪悪感と、同時にあふれ出る甘美な悦びに、意志が揺らぐ…。
ゆきは必死に腕の中から逃れようと、義勇の胸元を突き放した。
「そんなこと、やめてください!」
「…何故だ? 俺はもう、自分に嘘がつけない」
義勇が眉を寄せ、切なげに瞳を細める…。
そんな顔して私を見ないでよ…
しかし、その情熱を前にすればするほど、ゆきの心には昨夜の記憶が鮮明に蘇る。
ゆきは、無一郎が自分に向ける、純粋で真っ直ぐな愛の深さを知っている。
誰よりも自分の内側を理解し、愛してくれる無一郎の温もり。
その想いに応えたいと切実に願う心が、義勇の情熱を前に引き裂かれそうになる…。
「私には…無一郎くんがいます」
その名前を出した瞬間、義勇の体がピクリと強張った。
ゆきは自分に言い聞かせるように、震える言葉を紡ぎ続ける。
「無一郎くんが私をどれほど大切に想ってくれているか、義勇さんも分かりますよね? 昨夜私は、激しく…心も体も、もう彼の色に染められているんです。だから…もう…」
ゆきは、義勇の目を見つめたまま震えていた…。
「時透が、本気でお前を愛しているとでも言うのか?」
義勇のその手には力がこもる…。
「あいつの愛は、まだ幼い…。お前しか知らないからお前に執着しているだけだ。他を知れば心変わりするやもしれない。だが、俺のこの想いはずっとずっと変わらない、永遠だ。」
その言葉に、ゆきは言葉を失う。逃げ場のない切なさが、二人を締め付けた。
「義勇さん…私のことなど、忘れてください。」
腕の中で、お前はそう俺に告げた…
抱きしめているのに…お前が遠く感じた瞬間だった。
「そろそろ、準備して産屋敷邸に向かわなければ柱合会議に間に合いませんよ…」