第93章 産屋敷邸での波乱〜時透無一郎 冨岡義勇【R強】
無一郎の腕の中で、ゆっくりと背中を撫でられることでゆきの荒い呼吸は次第に整っていった。
「無一郎くん……私は大丈夫だから」
無理に作った笑顔が、かえって無一郎の胸を締め付ける。
無一郎はゆきが義勇への想いを断ち切り、自分を受け入れようと懸命に足掻いていることに気づいている…。
だからこそ、その笑顔が痛々しく映るのだった。
そこへ、鎹鴉が現れ、柱合会議への招集を告げた。
その声を聞き美月が廊下に現れた。
「今すぐ師範である冨岡様のところに行くべきじゃない?師範、継子は対で産屋敷邸に向かうべきよ。無一郎様もゆきに言ってやってください。」
お館様の命を前に、無一郎は苦渋の決断を迫られた。
「…お館様の命なら、仕方ない」
無一郎は名残惜しさを押し殺し、ゆきから手を離す。
私は…今から義勇さんのところへ…行くの?
好きと伝えられ…追い打ちをかけるように、愛していると手紙を受け取った…
ゆきは義勇を忘れようと決めていたはずだった。
無一郎という温かな光を受け入れ、彼と共に歩む未来を選ぼうとしていた。
しかし、今の義勇はしのぶと婚約した身。愛を囁きながら別の人と結ばれるという矛盾が、ゆきの心をかき乱す…。
無一郎は別れ際、ゆきの髪を愛おしげに撫で、その肩に手を置いた。
「ゆき…。じゃあ、また産屋敷邸でね。…帰りは、必ず一緒に帰ろうね。気をつけて行くんだよ」
不安げに揺れる声に、無一郎もまた、引き裂かれるような想いでいることが伝わる…。
冨岡さんと会うことによってゆきの気持ちが変わってしまうのではないのか…。
ーーー
ひとり義勇の屋敷へと向かう足取りは重い。義勇への想いを封印し、無一郎を選ぼうとした矢先の再会。
門の向こうには、手紙を綴った張本人であり、誰よりも遠い存在となってしまった義勇がいる…。
ゆきは震える手で扉に手をかけた。
忘れ去ろうと誓った想いと、どうしても断ち切れない苦しさがせめぎ合う中、彼女は覚悟を決めて、扉を開いた。
久しぶりに姿を現したゆきを見て隠達が驚き取り囲む。
「ゆき様!もう来てくれないのかと思っておりました。」
「ずっと柱元気なかったんですよ!」