第93章 産屋敷邸での波乱〜時透無一郎 冨岡義勇【R強】
ゆきは、全身を支配する心地よい気怠さと、肌に残る無一郎の体温に包まれて目を覚ました。
起き上がろうとわずかに動くと、腰に回された無一郎の腕に、ぐっと引き寄せられた。
「…起きたの?」
耳元で響いた甘い声に、ゆきは思わず顔を熱くさせた。
振り返ると、そこには寝起きの無防備な顔で、とろりと自分を見つめる無一郎の姿がある。
「無一郎くん…私、いつの間にか眠っちゃって」
「昨日、ちょっとやりすぎちゃったよね。無理させてごめんね。…痛いところはない? 大丈夫?」
真っ直ぐな瞳で体調を案じられ、ゆきは恥ずかしさのあまり布団に顔を埋めた。
そんなゆきを、無一郎は愛おしく感じ何度も髪を撫で、胸に抱き寄せた。
二人が身支度を整え、朝食のために部屋を訪れると、そこには浮かない表情で座る美月の姿があった。ゆきが席に着くや否や、美月は重い口を開く。
「…冨岡様と胡蝶様が、婚約されたことはご存知ですか?」
その言葉を聞いた瞬間、無一郎の中でバラバラだった事柄が音を立てて組み合わさった。
昨夜、隠たちが話していた「胡蝶様が激昂して乗り込んでいった」という噂。そして、周囲の憶測を消し去るための策。
なるほど…胡蝶さんは、二人は婚約したと宣言することで、冨岡さんとゆきを巡る噂を一気に収めたのか
無一郎は静かに納得した。
「ゆきさんはいいの?」
美月が真剣な目でゆきを見る
「いいって…?何が?」
「あなた冨岡様の事を、本当に諦めてるの?」
ゆきの鼓動が、いっきに早くなり息がしにくくなる…
昨夜鴉から届いた手紙を、思い出す…綴られていた「愛している」と言う文字を…
ゆきの様子がおかしい事に、無一郎はすぐに気付いた。
「美月!やめろ何を言ってるの?」
美月は、無一郎の制止も聞かずに続けた。
「冨岡様の事を聞いて、ほら動揺しているじゃない?嫌なんでしょ?婚約して結婚してしまうわよ。あなたが、好きな人は誰なの?本当に好きな人は?」
やめてよ…やめて…やめて…やめて…
「ほら?どうしたの?呼吸が乱れてますよ?」
無一郎は、過呼吸になったゆきを連れて部屋を出ていった。