第92章 快楽に溺れる日々〜時透無一郎【R強強】
手紙を届けると、寛三郎はゆき小さく言葉を、伝えすぐに夜の闇へと飛び去っていった。
その羽ばたきが遠ざかる中で、ゆきは足元の草むらに崩れ落ちる。
「…義勇ハ、オ前ノコトガ好キナンジャ。ワカッテヤッテクレ…」
寛三郎の残した言葉がずっと頭から離れない。
ゆきは震える手で、握りしめていた手紙をゆっくりと広げた。
そこには、見慣れた義勇の整った筆跡で、たった一言だけが綴られていた。
『ゆき、俺が想っているのはお前だけだ。愛している』
その短い言葉を見た瞬間、心臓が握り潰されるような激しい痛みに襲われた。
胸が苦しいよ…
「愛している」という、重たくて熱い言葉。
これまで義勇さんが口にすることのなかったその響き…
「そんなこと……言われたって……」
噂は嘘ではなかったはずだ。
なのに、どうして今さら?義勇さんはもう、しのぶさんの婚約者になっているのに。
私には無一郎くんがいる。
義勇さんとの事は、もう終わったのに…
一体、私をどうしたいのだろう。
愛しているって言われても…言葉と行動がチグハグだよ。
溢れ出る涙を拭うこともできず、ゆきはしゃがみ込んでしまった。
一方、屋敷ではー
無一郎は美月との簪探しを終え、ようやく戻ってきたところだった。
「すみません、付き合わせてしまって…」
「いいよ。母さんの形見なんだろ? またいつでも一緒に探してあげるから」
美月は、バツが悪く目を合わせられなかった。
無一郎は急いでゆきの待つ自室へと向かった。
早くゆきを抱きしめたい…襖を勢いよく開いた…しかし、そこに待っているはずのゆきの姿はどこにもなかった。
「あれ…? お風呂かな」
無一郎は不思議そうに首を傾げると、彼女を探して離れの浴室へと続く廊下を歩き出した。
ゆきは、浴室の外の草の上でしゃがみ込んだままだった。