第92章 快楽に溺れる日々〜時透無一郎【R強強】
部屋に戻っても、心臓の鼓動の乱れは一向に収まる気配を見せなかった。
廊下で耳にした衝撃的な噂。
水柱と蟲柱の婚約。
その言葉が、さっきまで無一郎と過ごした甘い記憶を薄れさせていく…頭の中が義勇の事で溢れてくる…
「私のことを好きだと言って惑わせた次は……しのぶさんと婚約するの?」
義勇の真意が全く理解できない。無一郎との関係に思い悩んでいた私の心に踏み込み、あれほど熱い言葉で愛を囁いたのは、すべて嘘だったのだろうか…。
結局は、あの夜の私を抱きたかっただけ…その場しのぎの欲望を満たすための、うそだったんだ…。
誰にも会いたくない。この荒ぶる感情をどうにかしなければと、私は逃げ込むように風呂場へと向かった。
屋敷の庭の、一番はずれにある静かな場所。
少しでも気持ちを落ち着かせたかった。
脱衣所に立ち、隊服のボタンに手をかけたその時、微かな「音」が聞こえた。
「…なに?」
風が木々を揺らす音とは違う、不自然な気配。
窓の外、闇の中に誰かが立っているような予感がして、凍りついた。
まさか、鬼が侵入したのか…ゆきは反射的に隊服を掴み直し、身構えた。
その瞬間、窓の外に確かに黒い影がよぎった。覚悟を決めて窓を開け、外へ飛び出した。暗闇に目が慣れるのを待つ間もなく、バサバサという羽音がすぐ近くで響いた。
「きゃっ!」
肩の上に降り立ったのは、義勇の鴉の寛三郎だった。
その足には、何かが結び付けられている。
まさか、義勇さんから…?
ゆきは震える手でその巻物を手に取った。
噂の真相。すべてを確かめるのが怖いと思いながらも、ゆきはゆっくりと封を解いた。