第92章 快楽に溺れる日々〜時透無一郎【R強強】
夕食の席に並ぶ三人の間には、耐えがたいほど張り詰めた空気が流れていた。
先ほどまで無一郎に抱かれ、体の中にその熱の余韻が残るゆきにとって、目の前の食事を口に運ぶ気分にはなれなかった。
隣に座る美月は、何事もなかったかのように静かに箸を動かしているが、その手はわずかに震えていた。
無一郎もまた、先ほどのゆきとの行為が嘘であったかのように淡々と食事を続けている。
「無一郎様…あの、簪の件なのですが気になるので今夜も探しに行きたくて…」
不意に切り出した美月の声が、空気を変えた。
彼女は母の形見の簪をなくしたと言い、それを口実に二人きりになる機会を伺っていた。
無一郎はその事実を知る由もなく、ただ煩わしげな表情を浮かべた。
「昼間にしてよね。今夜は忙しい」
無一郎はゆきにだけ分かるよう目配せをした。
美月は必死に、言葉を重ねた。
「大丈夫です。私一人で行くので」
「何言っているの?駄目だよ一人は危ない」
自分を気遣う無一郎の言葉を、美月は嬉しく思う。
しかし、無一郎の頭の中は、常にゆきの事だけだった。
美月は続けた…無一郎が、来てくれることを信じて…
「ここ数日間、鬼の目撃もありませんし」
と捨て台詞を吐いて席を立ってしまった。
「ごめん、すぐに戻るからね」
美月の背中を追う直前、無一郎はゆきの頬に指先を這わせた。
その場に取り残されたゆきは、食事を取ることをせずに、部屋に戻る為席をたった。
廊下を、歩いている途中でひそひそと隠達の話し声が聞こえて来た。
「おい、聞いたか?水柱と蟲柱の事」
「えっ?何だよ知らない」
「隊士宿舎でまた水柱とゆき様の噂話が上がってさ…手に負えなくなっていた時に、胡蝶しのぶが現れてさ…自分は水柱と婚約していると宣言したらしいよ」
ゆきは、その場で動けなくなった…
何? 婚約…?
義勇さんとしのぶさんが、婚約?
あまりの驚きに、ゆきの頭が真っ白になる…。
隠達の足音が近くなった事で、我に返り急いで部屋に戻った。
煩いくらいの心臓の鼓動を抑えながら…