第91章 噂を消した方法〜時透無一郎【R強強】
蝶屋敷の廊下を、義勇はただ一心不乱に突き進んでいた。
己の優柔不断さが招いた最悪の事態…。
隊士宿舎から戻り、ようやく一息ついていたしのぶの元へ、カナヲが静かに歩み寄る。
「師範、冨岡様がお見えです」
その言葉に、しのぶはいつもの穏やかな微笑みを崩さぬまま、「入ってもらって」と短く告げた。
襖が開くと同時に、義勇は部屋へと滑り込み、普段の冷静さからは想像もつかないほど動揺した声を出した。
「なぜ、あんな勝手なことをした…! 婚約しているなどと、なぜ触れ回った!」
鬼殺隊全体に広がるその嘘が、時透の元にいるゆきの耳に届くことだけが恐ろしかった。
胡蝶にきちんと別れを告げ、今度こそゆきをこの手に取り戻すと誓ったばかりなのに。
そんな義勇の取り乱した姿を見て、しのぶはクスッと愛らしげに笑った。
いつも口下手で感情を表に出さない彼が、ここまで必死に、自分を拒もうとしているその様子が可笑しかったのだ。
「もう、何度か冨岡さんと体も重ねました。それに今は鬼の出現も落ち着き、穏やかな日々を送れています。隊士宿舎では、あなたとゆきさんの下世話な噂もあり、婚約を発表するには、ちょうど良い頃合いかと」
まるで既成事実を優しく突きつけるようなその言葉に、義勇は酷くばつの悪そうな表情を浮かべ、拳を握りしめた。
これ以上、己の不誠実でしのぶを傷つけたくはない…。けれど、もう自分の心に嘘はつけなかった。
「ま、誠に、言いにくいのだが……胡蝶。お前との付き合いを…俺は、やめるつもりだったんだ」
告げられた別れの言葉。
しかし、しのぶは取り乱すこともなく、またフワリと妖艶に笑ってみせた。
「それは、無理ですよ…。お館様も、今こうして鬼が落ち着いている間に、私たちに『幸せになりなさい』と仰ってくださったのですから」
その瞬間、義勇の心は絶望に凍りついた。
違う、俺が本当に選びたかったのは、今でも胸を締めつけるほど愛しているのは、ゆき、お前だけなんだ…。
「胡蝶…だが…」
「ゆきさんも、もうすぐ時透くんと婚約します。それで隊士宿舎のよからぬ噂も忘れ去られるでしょう。」
俺は…遅すぎたのか…
何もかも…