第91章 噂を消した方法〜時透無一郎【R強強】
いくら待っても来ることのないゆきを、義勇は独り、門の見える中庭で待っていた。
俺は胡蝶を選び、彼女と付き合った。
けれど、どれだけ形を繕おうとも、胸の奥でどうしても断ち切れないのはゆきへの狂おしいほどの想いだった。
だからこそ俺は、自分の不誠実を承知の上で、ゆきに「好きだ」と本心を伝えた。
近いうちにしのぶとの関係を完全に終わらせ、今度こそゆきを時透の元から取り返すそう心に誓っていた。
「…ゆき」
愛しい名を呟き、空を見上げて深くため息をついたその時、上空から鎹鴉の寛三郎が舞い降りてくるのが見えた。
その羽ばたきは酷く乱れ焦っているように見受けられた。
寛三郎は義勇の肩に止まると、取り乱した様子で隊士宿舎で起きている大騒動について話始めた。
義勇の屋敷へ手伝いに来ていた隠の者が宿舎に戻るなり、「水柱と継子は、ただならぬ仲だ」と触れ回ったのだという。
そして、その噂を聞きつけた胡蝶しのぶが、いま直々に隊士宿舎へと乗り込んでいるのだと…。
「胡蝶が…? 何をしに行っているんだ」
胸騒ぎがして、義勇の声が震える…。
寛三郎は困惑した顔で、告げた。
しのぶは集まった隊士たちの前で、「水柱の冨岡さんと私は婚約しております。ですから、継子ゆきさんとの噂など根も葉もない捏造であり得ません」と、微笑みながら言い放ったのだと…。
「えっ?」
その瞬間、義勇の頭の中は真っ白に染まった。
思考が停止し、心臓が痛いほどに脈打つ。
別れを告げる前に、こんな事に…。
「婚約しているだと?あいつ何を…」
「婚約」それが瞬く間に鬼殺隊全体へと広がり、やがて無一郎の元にいるゆきの耳にも届いてしまうだろう…。
違う…俺が本当に選びたかったのは、お前なんだ、ゆき…
ようやく自分の心に素直になり、彼女を迎えに行こうとした矢先の出来事…。
自分の優柔不断さが招いた…。
どんどんゆきから、俺は離れていってしまう…
取り敢えず、胡蝶に会わなくては…会って気持ちを伝えなければ…。