第90章 好き〜時透無一郎 冨岡義勇【R18】
時が止まったかのような部屋の中…ゆきの指先は、まだ細かく震えていた。
無一郎くんが残していった冷たい声が、胸の奥をチクチクとトゲのように刺してくる…。
「ゆきさん…無一郎様にもう近づかないで」
重苦しい沈黙を破ったのは、美月の震えた声だった。
驚き顔を上げると、美月の表情は明確な敵意に満ちていた。
「え…?」
「本気で婚約を受け入れようと思ってるの?」
その言葉に、心臓が大きく跳ね上がる。
無一郎くんを愛している…。
好きだよ…
けれど…言葉が喉につかえて出てこない。
躊躇う私を見て、美月は冷ややかに鼻で笑った。
「水柱様と揺れてるでしょ?水柱様だって、しのぶ様ではなくこの人ゆきを想っているのではないですか?」
「それは…」
否定しようとした瞬間、背後にいた義勇が、静かに、ゆきの肩を掴み自分のほうを向かせた。
大きな手のひらから伝わる体温が、震えるゆきの身体に染み渡っていく…。
「美月、もういい。彼女を責めるな」
義勇さんの瞳が、私をじっと見つめる…。
なに?…何を言おうとしているの?
「俺は…胡蝶ではなく、お前が愛おしい。好いている…お前を傷つけるものすべてから、守りたい。それがたとえ、時透であってもだ…」
不器用な義勇の、命がけの告白だった。
突然の事でゆきは混乱した…
「な、何を言ってるんですか!?しのぶさんを選んだくせに今更…やめてください!」
ゆきは、そのままその場から走り去った。
「水柱様…今の言葉は、本心ですか?」
義勇は、拳を握りしめながらゆっくりと頷いた。
「ああ…」
「ならば…もっとしっかりとあの人をつかまえておいてください!」
美月は、涙を浮かべながら義勇に言い放った。
義勇は、その場に立ち尽くしたまま小さく答える。
「…お前にとやかく言われる筋合いはない。」
「す、すみません…ですが、お二人が曖昧だと周りが傷ついていきます…」
美月は、義勇に一礼するとその場を後にした。