第90章 好き〜時透無一郎 冨岡義勇【R18】
翌朝の朝食の間では、一人の隠が心を込めて膳を用意していた。
並べられているのは、ゆきの好物ばかり。彩り豊かな料理からは、彼らの温かな愛情が滲み出ていた。
そこへ、昨夜の光景に衝撃を受けた例の隠が、たまらず声を潜めて同僚に問いかけた。
「なぁ…なぜそんなにあの継子を特別扱いするんだ?」
聞かれた隠は、不思議そうに微笑んだ。
「お前、隊士宿舎から来た奴か? ゆき様のことは、この屋敷の隠みんなが大好きだからね」
その迷いのない言葉に、彼はさらに声を落とし、一番の疑念をぶつけた。
「だけど、水柱様は蟲柱の胡蝶様と付き合っているっていう噂だろう? それにあの継子は霞柱様の元婚約者で…なのにあの二人は」
すると同僚の隠は、すべてを察したように、切なく目を細めて答えた。
「あぁ、その噂なら私たちも知っているよ。だけどね、かつては…本当にあの二人が仲睦まじかったんだ。口下手な水柱様が、ゆき様の前でだけはどんどん心を開いていくのが目に見えて分かった。色んな事情や噂があるのは分かっているけれど、だからこそ…私たちは皆、あの二人を密かに応援しているんだよ」
宿舎の下世話な噂や複雑な関係性を知りながらも、誰もが二人の絆を責めることなく、その幸福を願っている…。
隠がその深い優しさに言葉を失っていると、隊服に身を包んだ義勇とゆきが静かに部屋へと入ってきた。
自然な動作で、義勇のすぐ隣にちょこんと座るゆき。隠は、その姿をじっと見つめることしかできなかった。
「義勇さん…あの、今日はお稽古、休んでも…いいですか?」
ゆきが少し探るような表情で、義勇を見上げた。
「無一郎くんが帰ってくるなら…出迎えたくて…」
無一郎の名が出た瞬間、義勇の瞳がわずかに揺れる。
義勇はすぐには答えず、ただ静かに、ゆきの横顔を見つめていた。
長い沈黙のあと、義勇はポツリと告げた。
「…無事がわかって、よかったな。今日は休みにしよう」
「ありがとうございます!」
俺の隣で嬉しそうに微笑むゆき…。
そうか…時透のところに帰るんだな…任務から帰らずで、泣いて心配していたんだ…当たり前だ…
だけど帰らせる前に、もう一度だけ…
義勇は、部屋に待機していた隠に下がるように合図を送った。