第89章 それぞれの夜〜冨岡義勇
運ばれるまま寝所へと辿り着いたゆきは、抵抗する気力さえ残っていなかった。
義勇は優しくゆきを布団へ横たえると、自らもその隣へと入っていった。
皆寝静まり静まりかえった部屋の中で、義勇の指先がゆきの髪を優しく、撫でる。
その甘い愛撫に、ゆきはただ天井を見つめたまま、心に鍵をかけるように瞳を閉じた…。
「時透が、心配か?」
義勇の声が鼓膜を震わせた。
「勿論です」
と短く返したゆきの声は、少し震えていた。しかし、義勇は止まらなかった。
「あの継子の美月と一緒にいるのだろう。…今頃、時透も彼女と、こうして肌を寄せ合っているかもしれんぞ…」
義勇さん…何でそんな事を言うの?そんな意地悪…
「縁側で見ただろう。抱き合う二人の姿を。…お前と婚約をやり直したいと言いながら、あの子を離せないのは、時透の方ではないのか?」
残酷な真実を突きつけてくる
ゆきは何も答えず、ただ激しい動悸を抑えるように義勇から背を向けた。
髪を撫でていたその手を、ゆきは震える手で強く振り払う。
「寝ます。静かにしてください」
突き放す言葉を放っても、背中に感じる義勇の気配は消えない…。
それどころか、義勇は、すぐさま背後からゆきの体を、ぎゅっと抱きしめた。
「ちょっ…離して、ください…」
「嫌だと言ったはずだ」
回された腕は、ゆきの胸のすぐ下で固く交差した。
そして、一方の掌が浴衣の合わせ目から、滑り込むようにして露わになった素肌に触れる…。
直接伝わる義勇の指先の熱…
「眠ろう…おやすみ」
義勇は、そのままゆきを抱きかかえたまま眠りについてしまった。
皆が寝静まった廊下に影が動く
二人の居る部屋を、じっと見つめる隠の姿があった…