第89章 それぞれの夜〜冨岡義勇
彼は数日前、隊士宿舎から応援として義勇の屋敷に派遣されてきたばかりの「隠」だった。
宿舎でのゆきに対する風当たりは、日に日に強くなっていた。
「あの継子、元師範の霞柱とも今の師範の水柱とも体の関係があるらしい」
そんな噂が飛び交うさなか、隊士の一人がゆきに危害を加え騒ぎになったその時に柱である二人がわざわざ隊士宿舎を訪れた…
忙しい柱がわざわざ出向く…それだけで、ゆきは二人に目にかけてもらっていることは、一目瞭然だった。
そして昼間に縁側で抱き合っている二人を見、先ほど目の前で繰り広げられていた逃げ場を奪うように壁へと追い詰め、ゆきを力強く抱きすくめる水柱の姿…
「まるで恋人同士のようじゃないか…今も同じ部屋で眠っているし…」
隠は噂程度に捉えていた事が、真実だったと確信した。
翌朝には、この光景が「真実」として宿舎へと持ち帰られ、さらにゆきを追い詰めることになるとは知らずに…
二人が眠る寝室ー
義勇は、大切そうにゆきを背後から抱きしめ寝息を立てている。
ゆきの、甘い香り…体の柔らかさ…近くに感じている時は癒されて安心する…ずっと抱いていたい…
ゆきの代わりには誰にもなれない…
唯一無二の存在…
俺達は結ばれないのか?こうやって互いの相手が居ない時にしか…触れ合えないのか?
これもすべて不器用な俺が招いた結果…
このまま連れ去ろうか…
俺は、夢の中なのにずっとそんな事ばかりを考えていた。
ふと、目が覚め腕の中に眠るゆきを見て俺は安心する。
「このまま…二人でどこか遠い場所に行こうか?」
夢の続きのように、気づけばそんな言葉が出ていた…。
それぞれの夜…
それぞれの想いが交差する夜…