第89章 それぞれの夜〜冨岡義勇
ゆきは、焦りながら義勇の腕から逃れた。
「私は、帰ります…」
潤んだ瞳でそう告げるゆき
窓の外はすでに暗く、精神的に不安定なゆきを、このまま一人で帰すことなど到底できない。
「駄目だ、泊まれ」
ゆきは困惑し、逃げ場を求めるように壁際へと後ずさる。
「…では、ここではなく、別室を貸していただければ…」
その消え入りそうな声に、義勇はゆっくりと距離を詰めていく…。
壁際に追い詰められたゆきの、震える体を優しい視線で見つめた。
「俺の部屋を使え。…俺が、別の部屋へ移る」
その言葉を聞いた瞬間、ゆきの表情にパッと安堵の色が広がった。
あからさまにホッとしたゆきの様子に、義勇の胸の奥が微かに痛む…
無防備な寝顔で、あんなにも愛おしそうに俺の名を呼んでいたというのに…。
義勇はわずかに目を伏せ、ゆきの心を占める一番の不安…無一郎の話を静かに始めた…
「時透の鴉…銀子に聞いた。あいつの居場所までは掴めていないが、鴉いわく我々は、『気にしすぎだ』そうだ。時透の身に危険な感じもしないそうだ」
「…そう、なんですか?よかったぁ…」
ゆきは、体の力が抜けたようにその場にへたり込んだ。無一郎のマイペースさを知る銀子の言葉は、何よりの信用できたからだった…。
「おいで、不安だっただろう?」
そう言って義勇は、ゆきに両手を広げてきた。
ゆきは、戸惑い首を横に振る…
「いいから…来い」
義勇も後に引かない…
「だ、大丈夫です。義勇さんこそお疲れでしょうから休んでください」
そんなに、俺を拒絶しないで欲しい…怯えた顔を見せないで欲しい…。
「おいで、ゆき」
「義勇さん…本当に…もうやめてください…」
ゆきの言葉が、胸に突き刺さる…。
俺は、それ以上何も言えなかった…
まだ一緒に居たかったがゆきが、それを望んでいるように感じられなかった…だから静かに部屋を出た…。