第89章 それぞれの夜〜冨岡義勇
ふすまを静かに引くと、すやすやと眠る、ゆきの寝顔があった。
目の前で眠る姿を見て義勇は知らずのうちに深く息を吐き出す。
時透の無事は銀子の言葉で半ば確信に変わったものの、まだ本人は帰らず…ゆきの不安は消えないだろう。
ふと見れば、ゆきは掛け布団を蹴飛ばし、それを愛おしそうに両腕で抱きしめるようにして丸まっていた。
「風邪を引くぞ」
独り言のように呟き、義勇は膝をついて手を伸ばした。
抱き枕代わりにされている布団を優しく解き、ゆきの体を包み込もうとした、その時だった。
「…ぎゆ、さん…」
鼓動が跳ね、あまりの衝撃に一瞬、呼吸の仕方を忘れてしまうほどだった…。
俺の夢を見ているのか?
ゆきは、また掛け布団を腕の中に抱くと安心した様子で寝息を立てた。
「…ここに、いる」
応える声は、自分でも驚くほど震えていた。
義勇は、布団を掛け直すはずだった手を、そのままゆきの頬へと動かした。
自然と顔を近づけていた…唇が触れる寸前に、ゆきがゆっくりと目を開いた。
いきなり迫る義勇の顔に、ゆきは驚き思わず義勇を押し退けた。
「ご、ごめんなさい!びっくりして…」
「寝言で、俺を呼んでいた…」
「えっ?」
「…その布団から、俺の匂いがしたから夢に出てきたのか?」
図星を突かれ、ゆきは頬を桜色に染めて俯いた。
無一郎くんがいないこんな時なのに
そう…紛れもなく義勇さんの夢を見ていた…
そして、夢の中でも義勇さんは今のように、こうして傍にいてくれた…。
そんなゆきを見つめ、義勇は静かに告げる。
「時透はまだ見つかっていない。…一人で不安な夜を過ごさせるわけにはいかない」
義勇はゆきの肩を引き寄せると、耳元で優しく囁いた。
「今夜は、ここにいろ。お前が眠りにつくまで、俺が時透の代わりに側にいてやる」