第89章 それぞれの夜〜冨岡義勇
辺りが暗くなってきた頃、義勇は重い足取りで屋敷へと戻った。
手掛かりは皆無…
時透は、どこに行ったんだ…
しかし、屋敷の門を潜ると、緊張感はどこかなくなっていた。
騒然としていた隠たちの動きが、妙に落ち着きを取り戻している。
「何か情報が入ったのか?」
義勇の問いに応えたのは、上空から舞い降りた彼の鎹鴉、寛三郎だった。
寛三郎が無一郎の鴉である銀子と接触し、情報を持ち帰ったのだ。
現れた銀子は、義勇の前に降り立ち羽を整えながら告げた。
「無一郎カラノ伝言? ソンナモノナイワヨ。デモ、アノ子ガ危険ナ目ニ遭ッテイル気配モナイワ。タダ帰ッテキテイナイダケ」
銀子にしてみれば、これは日常の延長に過ぎなかったのだ。
「アノ子ナラ、任務ノ途中デ雲ヲ眺メテイタリ、道ニ迷ッタリシテ数日戻ラナイコトナンテザラニアルデショウ? 今回モソンナトコロヨ。騒ギスギナノヨ…」
「そうか」
銀子のどこか呆れたような物言いに、義勇の肩からわずかに力が抜けた。
確かに、無一郎には浮世離れしたところがある。
柱合会議の最中ですら意識がどこかへ飛んでしまう…
それは、俺もわかっている…
だが、あいつはゆきと出会ってから変わったそこまで、浮世離れしているとは思えない、何か命の危機はないが問題が生じたことは確かだろう…。
しかし、最悪の事態、鬼との交戦や深手を負っている可能性が低いと分かり、義勇は微かな安堵を覚えた。
その時、一人の隠が義勇に歩み寄る。
「柱、おかえりなさいませ。ゆき様はまだ、奥のお部屋でお休みになられています」
「わかった。…そのままにしておいてくれ」
短く答えると、義勇は自室へと向かった。
無一郎が戻らぬ夜…今夜は、この屋敷でゆきの面倒を見ようと決め、自分も疲れた体を休める為にゆきが眠る部屋へを歩みを進める…