第87章 口付け【R18】冨岡義勇
「そ、そんなこと、義勇さんにいちいち言われたくないです」
ゆきは、不貞腐れたような声で言った。
義勇の至近距離にある胸板を押し返そうとするが、びくともしない。
それどころか、腰を抱く腕に力がこもり、二人の境界線がなくなるほどに密着させられる。
「義勇さんだって、急にしのぶさんとお付き合いを始めたじゃないですか…。だから、私だって無一郎くんと婚約しようが、誰とどうなろうが勝手じゃないですか!」
強がりが、義勇の本心を揺する…
俺は曖昧なお前を、諦め、俺を想い続けてくれた胡蝶を選んだ。だが…
ゆきが嫌いな理由がない。むしろ、胸が焼けつくほどに求めているのは彼女だった…
物置の隙間から、月明かりが細く差し込む。
その光が照らし出したのは、ゆきの白い首筋だった。
昼間、寝入っていたゆきに無一郎がつけたはずの、淡い口づけの痕を見つけて義勇は一度、それを自分の唇で上書きしたはずだった…
しかし、その上からさらに生々しくより深い赤色をした新しい跡がある事に気づく。
「俺の継子だ…勝手に婚約は許さない」
義勇はゆきの顎を強引に指先で持ち上げ、耳元に唇を寄せ話す
「時透に、首筋に跡を付けさせるな?目障りだ。俺への当てつけにわざと付けてもらっているのか?」
「ち、違います」
ゆきの困惑をよそに、義勇は首筋のもっとも赤みの強い部分を力強く吸い上げた。
「ちょっ…やだ」
狭い暗闇のなか、二人の体温が混ざり合い、逃げ場のない甘い密着
ゆきは義勇の背中に爪を立て、その激しさに翻弄されながら、甘く乱れた呼吸をする。
「あまり騒ぐと縁側で、座る時透に気づかれるぞ…」
ハッと我に返りゆきは、大人しくなった。
義勇は、首筋から唇を離しゆきをぎゅっと抱きしめた。
あまりにも強すぎて、義勇との稽古で出来た背中の痣が痛む…
「んっ…」
義勇は、すぐにそれに気付き腕の力を緩めた
「もしかして、俺が稽古でつけてしまった痣が痛むのか?」
「…はい」
「わるかった…」
「いえ、あれは私が未熟者だからです…謝らないでください。」
狭く暗い空間だからなのか?何故か色々と素直に心内が話せているような気がする…。
その時小屋の隙間から外を覗くゆきの表情が曇った…