第87章 口付け【R18】冨岡義勇
無一郎が、物置小屋に向う少し前…義勇は、瞬時に動いておりだから小屋には二人が、居なかった…。
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無一郎の気配を察知し、ゆきを抱えて飛び出した義勇は、屋敷の塀を越え覗かれても見えぬ様に、壁際にゆきを追い詰めると、再びその唇を奪った。
声を上げさせないための、強引で…けれどひどく甘い方法だった…。
ゆきの体を、義勇の男らしい体温が支配する…。
「…ん、んぅ…」
無一郎が近くに居るとは知らないゆきは、声をあげようともがく…
義勇は、それを封じ込めるため余計に唇を食べるようにして口づけで抑え込んだ。
密着した胸板から心臓の鼓動が伝わり、ゆきは目眩さえ覚える…。
無一郎の足音が遠ざかり、ようやく唇が離された時、ゆきの瞳は、とろんと潤んでいた…。
「…はぁ…ぁ、義勇、さん…」
力なく義勇に、しなだれかかるゆきを、義勇は、愛おしげに抱きしめた。
何が何だか分かっていないゆきは、義勇の胸元に顔を委ねたまま酸欠で、意識が朦朧としていた。
「大丈夫か?…時透が部屋に向かった、早く部屋へ戻れ」
甘く、鼓膜に響く声。
義勇はゆきの頬に口づけを落とすと、震える手でゆきの隊服のボタンに指をかけた。
一つ、また一つ。開かれたときよりもずっと時間をかけて、指先を肌に触れさせながらボタンを閉じていく。
最後の一つを留め終えると、義勇はゆきの頬を両手で包み込み、額をそっと合わせた。
至近距離で見つめ合う二人…。
「あの小屋での出来事は、外に出た今もう何もない。お互い忘れよう…」
そう囁くと、義勇はゆきの髪を愛おしげにひと房掴み、唇を落とした。
「ただ…また、どうしようもなく悲しい時、淋しい時、辛い時があれば…言ってくれ…あの小屋の中だけは、俺達はただの男と女になろう。また呼び捨てで呼んでくれ…」
ゆきは、戸惑いながら答えた…
「約束できないです…それに、無一郎くんのお屋敷の庭でそんな事…」
「場所はどこでも構わない…俺の屋敷でも…」
ゆきは、返事に困り黙りこくってしまった。
義勇はゆきを屋敷の入り口まで送り届けるとゆきの姿が見えなくなるまでその場で、じっと見守った。