第84章 柱の命令〜冨岡義勇 時透無一郎【R強】
義勇が静かにふすまを開けた瞬間、隠の制止を振り切ったしのぶが、当たり前のように室内へ入ってきた。
しのぶの目は、真っ先に部屋の隅に座るゆきへと向けられた…。
乱れのない髪、整った隊服。その姿を確認し、しのぶは僅かに安堵した…。
「本当に打ち合わせをしていたのかしら…?」
しのぶは義勇の隣へ歩み寄ると、腕に手を回した。
「冨岡さん、今夜一緒に過ごそうと思いこちらに訪ねてまいりました」
潤んだ瞳で義勇を見上げ、あからさまにゆきへ見せつけるようその距離を縮める。
二人の様子に胸を締め付けられたゆきは、逃げるように席を立った。
「失礼します。私は、そろそろ宿舎へ戻ります」
しのぶの前を通り過ぎようとした、その時。しのぶに、甘く濃密な香りがかすめた…。今隣で腕を回している義勇からも同じ香りがする…
さらに、至近距離で見るゆきの顔、その唇は不自然に赤く腫れ、瞳は潤んでいる。
その直後、背後から響いた義勇の声に、しのぶは息を呑んだ。
「待て、ゆき!今から帰れば門限を過ぎる。これを持って行け」
義勇は手早く文をしたためると、それを手渡す際、ごく自然に、ゆきの羽織りの襟元を整え、頬にかかった髪をその指先で優しく払った。
指先が肌に触れるたび、ゆきの体には、つい先ほどまで受けていた口付けの感触が蘇えり胸が高鳴る…。
「…ありがとうございます」
消え入るような声で告げ、部屋を飛び出したゆき。
義勇の指先に残るゆきの体温と、去りゆく背中を追う切なげな視線。
自分と腕を組みながら、心はまだゆきに奪われている…。
しのぶは、思わず義勇に抱きついた。
「な、なんだ?どうした?」
「冨岡さんの中には、ずっとあの子がいるんですね?」
しのぶは、ぎゅっと義勇にしがみつき言葉を続けた。
「この部屋でお二人で、何をしていたのですか?」
「明日の任務の打ち合わせだ…。」
「あの子の匂いが貴方に移っています…甘い香りが冨岡さんの体からずっとします…私の苦手な香りです…」
義勇は、すがりつくしのぶを引き離しふすまの前に移動した…。
「胡蝶…今日は帰ってくれ…。」
「…私達はお付き合いしているのですよね?」
「あぁ…でも今日は帰ってくれ…。」