第85章 霞柱邸〜時透無一郎【R強】
屋敷で横になっていたゆきは、深い夢の中にいた。
その夢は、鮮やかに咲き誇る桜の木の下で、ゆきは池を泳ぐ色とりどりの鯉に見惚れていた…。
ふとした拍子に足元を滑らせ、水面に落ちそうになったその時、強い力で抱きかかえられる。
「……義勇さん……」
振り返った先にいたのは、義勇だった…。
その名を呟いた瞬間、体に走った鋭い痛みが現実へと引き戻す。
ゆっくりと目を開けると、そこには任務から急いで帰還した無一郎の姿があった。
「ごめんね。起こしちゃったかな? 気持ちよさそうに寝ていたよ」
無一郎はいつになく穏やかな表情で、ゆきのおでこに優しく唇を落とした。
愛おしげに身を寄せる無一郎の体重が、わずかにゆきの体にのしかかる。
「…っ痛い…」
ゆきが思わず苦痛に顔を歪めると、無一郎の表情が一変した。
「…何? どうしたの、それ」
無一郎の視線が、浴衣の袖から覗く青紫色の大きな痣に釘付けになった。
「これは、何?」
「…稽古で、義勇さんに……」
ゆきが正直に答えると、無一郎の顔色が変わるのがわかった。
「…やりすぎだよ。冨岡さん、わざとやってるの? もしかして、他にもあちこちに打撲の跡があるの?」
「ううん、本気で稽古をつけてくれた証拠だから、大丈夫だよ」
ゆきは必死に義勇を庇うが、無一郎の不機嫌は収まらなかった。
「信じられない…君をあんなに大切にしてたのに…」
その時、ゆきがおもむろに浴衣の帯を指先で解き始めた。
はらりと解ける帯、緩んでいく襟元に、無一郎は驚き固まっている。
「……何をしているの?」
問いかける無一郎に、ゆきは少しだけ視線を伏せて答えた。
「だって、今朝…無一郎くんが、今夜もしたいって……。約束、してたから」
例え体は痛んでも、無一郎の望みに応えたい。
その健気な誘いに、無一郎の胸は激しく締め付けられる、それに体の至る所に湿布を貼っており痛々しかった…。
「待ってゆき…今日はいいから安静にして休んで…」
無一郎が、優しく浴衣を直してくれて横にしてくれ、自らも布団にそっと入り腕枕をしてくれた。
「明日…稽古やすめばいいよ…」
無一郎は、怒った口調で告げた。
「ううん…行く。大丈夫だよ」